岩松 暉著『山のぬくもり』20


センター入試と付き添い

 今日は大学入試センター入試の初日、前夜来の雨も上がってまずまずの受験日和だった。日だまりで参考書をめくったり、どこの会場でも見られるいつもながらの風景である。ただ、鹿児島が他の都市と違って異常なのは、市内の進学校が団体で大挙してやってくることだ。地元の大学なのだから、市内の高校生は大学祭に遊びに来たりして、誰でも自分の家の庭のように知っているはず、それなのに先生が引率して連れてくる。聞くところによると、早朝高校に集めて受験票などチェックした上、遅刻しないよう揃ってやってくるのだという。その上、構内では円陣を組んで先生が最後の訓辞、入室時間になってもまだ拘束していることもあった。おまけに教室に入る前に、「エイ、エイ、オー」などと気勢を上げる始末。いったいどうなっているのだろう。離島や田舎からの受験生は、たった一人でやってくる。初めての都会で心細いから、受験の重圧と相まって極度に緊張している。そんな人もいるのにこの傍若無人の振る舞い、思いやりがないのだろうか。
 第一、大学への道順くらいみんな知っているから、先生が付いてくる必要はない。遅刻だって忘れ物だって本人の責任だ。私が受験したとき、山手線に内回りと外回りがあることを知らず一周したことがある。前日の下見で失敗すれば、当日は間違わない。今のように手取り足取りしてやれば、自主性が育つはずがない。追跡調査によれば、市内の進学校出身者は入試の成績はよいが、だんだん学力が低下していく傾向がある(他県の高校では尻上がりになるところもある)。とくに、卒論では手も足も出なくなる人が多い。敷かれたレールのないところでは、どちらに向かって走ってよいか分からないので、途方に暮れてしまうのだ。高校の先生方には、「可愛い子には旅をさせろ」という言葉を贈りたい。

(1997.1.18 稿)


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更新日:1997年8月19日