岩松 暉著『山のぬくもり』10


たたり

 昨年末、注腸検査なるものを受けた。美人の看護婦さんが事も無げに言う。「胃の検査でバリウムを飲んだことがあるでしょ。お尻からバリウムを入れて空気で膨らませるんです。上から入れるか下から入れるかの違いで、あれと全く同じです。」 冗談ではない。上か下かは決定的に違う。
 まずバリウムを入れられた。浣腸と同じ要領である。続いて空気、「ちょっとお腹が張りますが我慢してください」とのこと。検査の間、子供の頃のことを思い出した。
 小学校の国語の教科書でイソップ童話を教わった。お母さん蛙が子供に牛の説明をするためにお腹を膨らませてついにパンクした例の話である。後年科学者になったアキラ少年は、さすがに幼少の頃から実証精神に富んでいた。学校から帰ると早速蛙を捕まえてきて、自転車の空気入れで蛙のお尻から空気を入れたのである。牛ほど大きくなるとは思っていなかったが、ソフトボールくらいにはなるだろうと期待しながら。そして、……。
 今、うら若い女性の前でお尻を出している、この無様な格好、あの蛙の祟りだ。10年ほど前、初めて胃カメラを飲んだ時には、三軸試験機にファイバースコープを入れて、高圧下で岩石が破壊する状況を実際に目で見てみようというアイディアがひらめいた。地下で断層ができる様子の再現である。しかし、今回は何もひらめかなかった。その上、どうも切腹しなければならないらしい。やはり、祟りじゃ〜!

(1997.1.4 稿)

<後日談>
 腫瘍の疑いがあるとのことで今度は大腸鏡検査となった。結果は無罪放免、もちろん、切腹はなし。これで腹に一物などないことが証明された。(1997.1.6 稿)
前ページ|ページ先頭|次ページ

連絡先:iwamatsu@sci.kagoshima-u.ac.jp
更新日:1997年8月19日