岩松 暉著『二度わらし』6


臨時便

 出張勝ちで常々母子家庭と言われている。そこで、ゴールデンウィークぐらいは家庭サービスと、甑島に行ってきた。前日、商船会社に電話したら、連休は夕方臨時便を運行するとのこと。それなら日帰りも可能である。レンタカーを借り、駆け足で島巡りをすることにした。天候に恵まれ、静かな島の自然を満喫した。一日中ウグイスの声が聴けたし、キジの夫婦にも会った。満足満足。
 ところがこれからが問題。夕方港に行くと、船着き場には鍵がかかっていて人っ子一人いない。船会社に電話したら、3日と5日は確かに臨時便を運行する予定だが、もともと4日は計画していないから、島に泊まるしかないという。国民宿舎と交渉してくれ、泊まれることになった。宿舎の支配人は、突然なので部屋は用意したが夕食はできないと、親切に外のレストランまで車で送ってくれた。宿代等については船会社と相談するから、夕食代は払わないようにとのことだった。国民宿舎も新築で立派だったし、その上、支配人が親切で非常に感じがよかったので、フェリーのトラブルなど消し飛んだ。思いがけずのんびりと骨休めが出来たようなものだ。考えてみれば、船会社も臨時便のことを言った言わないと押し問答したりせず、宿を手配してくれたり誠実に対応してくれた。そこで翌朝、支配人に宿代などすべてこちらで支払いますから、船会社にはよろしくお伝えくださいと申し出た。ところがチェックアウトのとき、昨夜の夕食代と帰りのフェリー代は船会社が持つとのことですと告げられ、ちょっとびっくり。何の証拠もないのだから、今の世知辛い世の中、臨時便のことなど言わなかったと言い張るものと思っていたので、何だかかえって悪いことをしたような気がした。島の自然と人情に感激したすばらしいゴールデンウィークだった。
 この随筆集も暗い話題ばかりで気が滅入る。別に私が悲観論者でマイナス面ばかりを見ているわけではない。大学や地質学をめぐる現状を反映しているのである。今回は久しぶりの爽快な話題だったが、外の世界の話ではある。

(1998.5.5 稿)


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更新日:1998年6月6日