岩松 暉著『二度わらし』5


エンジニア

 学生寮の後輩が訪ねてきた。大手自動車メーカーの中央研究所で金型の研究をしていた。今は関連ソフト会社にいるという。リストラされたのかと心配になった。ところが、ソフト関係で博士の学位を取ったというから、その道の権威らしい。金属が専門でなかったのかと質問したところ、「大学はエンジニアを養成したのであって、冶金屋というテクニシャンを作ったわけではない。どの学科を出ていようと、誰でも必要とあれば何でもこなせるはずだ。学位だって、教養学部時代に読んだ位相差解析のことをふっと思い出したので、ちょっと応用してみたまでだ。」と、事も無げに言ってのけた。そういえば、工学部の英訳はFaculty of Engineeringであって、Faculty of Technologyではない。
 さて、今の学生にこれだけの幅の広さとチャレンジ精神がどれだけあるだろう。何しろ最小エネルギーの法則を実践し、当面楽なほうへ楽なほうへと流れているのだから。

(1998.6.5 稿)


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更新日:1998年6月6日