自然回帰とジオパーク

岩松 暉(東京新聞サンデー大図解ボツ原稿)


 ジオパークの創設者であるユネスコ前地球科学部長エダー氏によれば、ジオパークは保全が前面に出る世界遺産と違って、教育やジオツーリズムなど利活用に力点があるとのことです。
 「母なる大地」と言われます。しかし、三大都市圏に人口の過半が住み、一億総都会人になった今、それを肌で実感できる人はいったいどのくらいいるのでしょうか。いじめや子殺しなど眉をひそめる事件が多発するのも、自然から切り離された生活しているところに根源があるように思います。国立科学博物館には小児麻痺で寝たっきりだった縄文人の骨が展示されています。仲間が天寿を全うするまで支えたと解説にありました。大地に抱かれて育った縄文人にはこのような優しさがあったのです。子供たちは自然の中で育てたいものです。
 一方、日本列島は環太平洋地震火山帯に位置し、かつアジアモンスーン地帯にも位置します。いわば災害列島です。地学に対する知識の有無が生死を分けることだってあります。地学は日本人にとって必要不可欠な国民教養なのです。しかし、今学校教育で地学はすっかり片隅に追いやられています。インド洋大津波の時、Tsunamiは英語になっていますから、日本人が「津波だあ!」と叫んで逃げていたら、どれほど大きな国際貢献になったか知れません。そのご本家の日本人が悠然とビデオを撮っていたのです。もう一度、地学を国民の中に根付かせなければなりません。ジオパークはその良い機会と場を提供してくれるでしょう。
 子供たちだけでなく、高齢者にとってもジオパークは魅力があるのではないでしょうか。団塊の世代は高学歴で知的好奇心に富んでいますし、地学が必修だった世代です。地方出身者が多く、自然回帰傾向も強いのです。ジオツーリズムは受け入れられると思います。手つかずに残っている自然をうまく活用して地域の活性化につなげたいものです。

(NPO地質情報整備・活用機構会長)


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更新日:2007年10月28日