東日本大震災緊急アンケート

岩松 暉(Bosai+Plus, Vol.1, No.15, p.2)


Bosai+Plus編集部から「オピニオンリーダー緊急アンケート」なるものが来た。意見分布でも調べるのだろうと、熟慮もせず回答したら、そのまま記名で掲載されてしまった。三陸の産業復興と防災との両立などの側面が欠如しており、不十分だと反省している。

1.わが国の災害史のなかでこの大震災をどのように位置づけるか

 1000年に1度の低頻度大規模災害などと言われているが、この言葉には逆にあと1000年は大丈夫と思わせる負の効果がある。最近津波堆積物などの研究が進み、この程度の大津波は過去にもしばしばあったことが実証されている。歴史時代になっても、八重山の明和大津波や三陸の慶長・明治などの大津波では津波高さが極めて大きいものがあった。若い変動帯(環太平洋地震火山帯)に位置する日本列島では、ごく普通に起こる事象と考えるべきだと思う。
 近代的な観測が行われてきたのは高々百数十年、そのデータに基づき100年確率を算出、ハードで自然を征服できるかの如く考えてきたのは、自然を知らないと言うべきだ。防災施設がかえって災害危険要因になることもしばしばある。かつての遊水地に連続堤防が出来ると、宅地化されるのが好例である。今回の三陸津波でも、世界一の防潮堤が安心感を生み、住宅の進出を促進し、津波に対する警戒感を弱めた効果があったのではなかろうか。もちろん、避難の余裕を多少は生んだかも知れないが。

2.“想定を超えた大災害”であるとすれば、その復旧・復興対策とはどのようなものであるべきか

 “想定を超えた”とは上述のようにまさにカッコ付きで使うべき言葉だと思うが、それを前提に回答する。学生時代気仙沼を卒論で調査していた際、船主は少し不便でも高台に豪邸を構え、漁師達は日常の利便性を優先させて海岸際に住んでいることに気づいたことがある。お墓も海を見下ろす高台にあった。金持ちは安全なところに住んでいるのだなあと思った。
 首藤伸夫先生(編集部注:東北大学名誉教授)からお聞きした話だが、明治三陸大津波後三陸町吉浜では、名主新沼武左衛門の主導で高台に移転、その後も戒めを守ったので、今回も完全に無事(海岸に造られた防浪堤は完全に破壊)だった由、今後の復興はやはりこの名主さんに見習うべきと思う。
 どうしても狭隘で土地の確保が難しい場合には、明治の十津川災害の際、北海道に村ごと移住して新十津川村をつくったように、コミュニティーを維持したまま移住することも考慮せざるを得ないのではなかろうか。桜島大正噴火でも、溶岩で埋まった集落では移住が行われた。
 なお、昭和三陸津波やチリ地震津波の記念碑はあちこちにあるが、記念碑では迫力がなくやがて風化する。桜島の埋没鳥居や島原の大野木場小学校のように、被災遺構を現地保存して、子孫にその怖さを伝承すべきと思う。
 以上は現地での復興の話である。質問は震災だけだが、復興に当たっては福島原発事故も考慮に入れるべきではなかろうか。両者を勘案すると、もっと国家的な社会システムの変革が求められているような気がする。防災の基本は危険分散だが、三大都市圏に人口の過半が住む極端な一極集中が進行しており、もしも東海・東南海・南海地震の三連発や関東大地震だったら、日本国はもっと壊滅的打撃を受けていただろう。言葉だけの地方主権でなく、地方で生業の成り立つ政治に大転換すべきだと思う。
 「24時間働けますか」なるCMは異常である。ヨーロッパのように、夕方には商店街の灯は消え、工場も休んで、家庭で一家団欒を楽しむ生活に戻るべきだと思う。海外の学会で夜お腹が空いたので街へ出たら、たった一つ明かりが点いていたのが、日本の大手コンビニチェーンで大変恥ずかしい思いをしたことがある。計画停電が実施されている現在が、街頭の自販機や24時間コンビニに象徴されるようなエネルギー多消費型社会を改める絶好の機会である。クリーンエネルギーだけで生活できるような生活スタイル、食糧自給率をフランス並みに引き上げる、エコ産業で世界に打って出るようなイノベーションを図る等々を、上述の地方分散とセットで行うのである。オバマ米大統領のグリーンニューディールを上回る大きな社会変革ビジョンを早急に打ち出すことが求められているのではなかろうか。さもないと、また同じところに同じようなものを拙速に造る、文字通りの「復旧」が進行し、土建社会が復活することになりかねない。

3.この大災害をどう呼ぶか

 NHKだけ東北関東大震災と呼び、多くの新聞は東日本大震災と呼んでいる。関東人は東北を田舎だと蔑視しており、一緒にされることを嫌う風潮がある。NHKの呼称にはそれが反映されているようで不快である。東北も関東も日本全体から見れば東日本、新聞の呼称のほうが良いと思う。

(2011/4/1)


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更新日:2011年4月1日