岩松 暉著『地質屋のひとりごと』

山を見る・山と語る 8


不整合―造山運動の証―

中生代と新生代の不整合(鹿児島県薩摩郡上甑村)

 日夜,火を噴く桜島。毎日仰ぎ見ていると,高い山はみな火山からなると錯覚してしまう。しかし,世界の高山は堆積岩の山が圧倒的に多い。日本の背骨,脊梁山脈もまた然り。高い山の上から海棲化石が産出することもある。ノアの洪水の産物か? 古来,哲人を悩ました問題も,今ではかつての海底に積もった地層が隆起したためだと,小学生でも知っている。
 出る釘は打たれる。当然,陸上に出た地層は雨風に削られ,やがて低地になっていく。沈降して再び海中に没する例も多い。海底では,この削られた古い地層の上にまた新しい地層が積もる。沈降して新しく地層が堆積し始めるときには,しばしば陸から粗粒な物質が供給される。基底礫岩と呼ばれる。このような新旧二つの地層の関係を不整合という。普通の不整合露頭では,侵食を示すデコボコした面と基底礫岩が目印となる。下の地層が上の地層より急傾斜しており,斜交していることもある。傾斜不整合という。地層の時代を調べると,著しい時間間隙が認められる。海底にあったものが一旦陸上に顔を出し,再度沈降したわけだから,何らかの変動があったに違いない。写真の例のように下の地層が褶曲して傾斜いる場合には,かなり激しい造山運動があったものと思われる。こうしたことから,不整合即造山運動と短絡して考えられるようになった。
 しかし,不整合=隆起とは限らない。海水準が低下して海が退いた場合でも堆積盆の周辺部なら陸上に顔を出す。海底での侵食作用でも侵食面ができる。また,時間間隙があっても,その間の地層が削り去られたのではなく,単に地層が堆積しなかっただけかも知れない。現に現在の海底でも硬い岩石が露出しているところもある。全体像を考察することなく,局所的な不整合露頭や化石による時代間隙の推定だけでものをいうのは危険である。運動というからには,広域応力場で強烈な変形を受けたわけだから,各所に変形の証拠が秘められているはず,“露頭を読む”ことのできる真の実力が求められる。こうした力学的アプローチをする分野を構造地質学といい,比較的新しく生まれた分科である。
 ところで,最近は大洋中央海嶺で生まれた岩盤(プレート)が横に移動して互いに衝突したり,一方の下にもぐり込んだりするときに褶曲山脈が形成される,との説がもてはやされている。日本列島と南米チリでは,同じ東太平洋海膨で生まれたプレートに押されているから,同じ頃造山運動が起きてもよさそうに思う。遠く離れた地に思いをはせる。地質学は気宇壮大な学問である。
 下の写真は傾斜不整合を示す。下の傾斜した地層は中生代白亜紀の姫浦層群で,上に載る水平な地層は新生代古第三紀始新世(?)の上甑島層群である。暁新世の地層が欠如している。白亜紀層が褶曲した後侵食され,その上に古第三紀層が積もったのである。ただし,ここは天草堆積盆の一部で,島弧の後背に位置し,プレートのもぐり込む場ではない。日本列島が押されたために玉突き的に押されたとでも説明するのであろうか。

(鹿大学報1987年9月号表紙掲載)


ページ先頭|地質屋のひとりごともくじへ戻る
連絡先:iwamatsu@sci.kagoshima-u.ac.jp
更新日:1997年8月19日