岩松 暉著『地質屋のひとりごと』

こどもと教育 7


乱塾時代の実像

 世は乱塾時代。どこで調べたか,わが家にも塾のダイレクトメールがよく来る。塾に入らないと,進学は無理かのような脅し文句まである。
 中3の娘が言うには,級友のほとんどが塾に通っているか,家庭教師についており,中には学校を早退して塾通いする者までいるとのこと。
 塾の子には,勉強しているかどうか,毎晩チェックの電話がかかってくる。それも出来る子から順番,出来の悪い子は真夜中の一時過ぎになる由。塾の宿題が沢山あって学校の宿題まで手がまわらない。しかし,やってないと内申書にひびくから,朝自習の時間に他の子のものを丸写しする。中には50円で宿題を買い取る子もいるとか。また,同じ理由から塾は学校の期末テストの予想までする。バイト学生の言うには,最近の学校は市販テストを使うので,どの学校がどの会社のテストを使うか,推理するのが塾教師の腕だとのこと。塾の予想が外れると,塾に行っていない子の順位が相対的に上がる由。
 要するに,受験勉強は塾中心の猛烈な詰込み。しかも学校で教える範囲の一歩先を教える。だから塾の子は一見何でも出来るように見える。しかし,多くの子にとっては不消化で,その上,学校の勉強もおろそかになり,結局,虻蜂取らずになっている。したがって,山が外れると,成績ガタ落ちとなるわけである。
 一方,学校は内申書という武器を握っているから無視するわけにはいかない。そこで,手段を選ばず,その対策も講ずる。予想問題も宿題買いもその手段。わが娘は,「汚い手まで使っても有名校に行きたいんだろうか,進学校に行って,あんな人たちと友達にはなりたくない。自分が病欠したときなど,心配して見舞ってくれるのは,決まってそういうところから外れた人だ」と言う。わが子はまだしも健全だと,少々ホッとした。
 その他,塾はいろいろな学校の生徒が集まるので,そこで非行を覚えるケースが多いとのこと。夜遅く帰宅するわけだから,ありそうなことだ。

(1986.10.28 稿)


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更新日:1997年8月19日