地球環境とキャンパス

 鹿児島大学風致委員会委員長 岩松 暉(『鹿大広報』No.125, p.1-2,1991)


 地球の温暖化・砂漠化・大気汚染……最近は地球環境問題が話題になっている。わが鹿児島の誇る屋久島,日本で一番自然が残っていると言われてきた屋久島にも大気汚染の影響が着実に忍び寄っている。室蘭工大の室住先生と共同研究で屋久杉の年輪層と屋久島の岩石・土壌に含まれる重金属を調べてみた。図に鉛とカドミウムの例を示す。他の金属も同様で,数10年前から急速に変化している。鉛の同位体比も都市空中塵のそれに近づきつつある。絶海の孤島にもモータリゼーションの影響が及んでいるのである。南極の氷でさえ汚染されているという。われわれは何気なく車を使っているが,世界中に影響を与えているのである。今や日常生活と世界は直結しているといっても過言ではない。世界平和は政治家に,環境問題は科学者に,ゴミ問題は行政に,一切任せておけばよい時代ではない。われわれの日常が問われている時代なのだ。
 無気力・無関心・無感動などと言われて久しい現代学生だが,最近は環境問題や障害者問題などを通じてボランティア活動に参加する学生が増えているとか,大変喜ばしい。しかし,ひるがえってわが大学のキャンパスをみてみると,とても学問の府にふさわしい環境とはお世辞にも言えない。空き缶やゴミが散乱しているし,車の不法駐車も目に余る。バイク騒音はけたたましい。桜島の降灰という自然条件にも災いされて,うす汚れた騒々しい印象を与える。おそらく全国の大学で,ということは世界中の大学でキャンパス環境は最低なのではなかろうか。口で環境保全を説いても,自らは空き缶のポイ捨てをやるようでは説得力は全くない。騒音公害をまき散らして平然としているようでは,他者へのいたわりを説く資格はない。いったい「大学の自治」はどこへ行ったのであろうか。大学の自治は,良識ある大学人は自らを律することができるとの前提の上に成り立っている。だからこそ国家権力の学内不介入が歴史的にかち取られてきたのだ。
クリーンキャンパスデーでロードスイーパーを運転する井形学長(10月18日)
 そこで先ず身近なところから提案したい。今秋から偶数月の第3金曜日に教職員学生の手によるクリーンキャンパスデーを実施することとした。お手すきの方はぜひ参加していただきたい。また,以前実施した学生生活実態調査の第一の苦情が騒音であった。バイク入構は年中24時間禁止である。守衛さんがいなくなると無秩序状態というのは誠に情けない。ぜひ学内交通規則は守って欲しいと思う。実験廃液など有害廃棄物の処理にも気をつけて欲しい。ごく僅かだからと思って流しに捨てるのだろうが,塵も積もれば山となる。大学が地下水汚染の加害者になるのは困る。
 もちろん,ハード面での改善の余地は多々ある。今年から学内環境整備等特別経費をいただいたので,さし当たり今年は郡元キャンパス外塀の植栽や門の改良,さらにはゴミの分別収集なども実施したい。ヤシ並木など幹線道路の改良も検討している。ご意見ご要望をお寄せいただければ幸いである。
 この広報でも連載しているように,本学はいま21世紀を目指してキャンパス再開発計画に取り組んでいる。欧米の大学やわが国の私立大学のように,緑豊かな落ち着いた雰囲気の学園を一日も早く実現したいと思う。しかし,どんなにお金を注いで立派な建物を作ったとしても所詮無機物でしかない。学園のかもし出す雰囲気は主人公たる学生の質で決定される。学生のみなさんの猛省を促すと共に奮起を期待する。「地球に優しく」するためには,先ず一番身近な自分のキャンパスに優しくなければならない。
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更新日:1997年8月19日