岩松 暉著『山のぬくもり』27


ボランティア

 1996年12月ロシアのタンカーナホトカ号が沈没し、流出した重油が日本海沿岸を汚染した。漁業や生態系に甚大な影響を長期にわたって与えるであろう。早速、ボランティアが大活躍、厳寒と油臭の悪条件の中、海岸の岩場にこびり着いた重油を手作業で取り除いている。全く頭が下がる。日本の若者は軟弱で3Kを嫌うなどと言われてきたが、どうしてどうして捨てたものではない。阪神大震災でも若者たちのボランティアが活躍したのは記憶に新しい。そのため、1995年はボランティア元年と言われた。これが一時的なファッションでなかったことが、今回の流出事故で証明されたと言ってよい。若者が健全である限り、日本の未来は明るい。
 一昔二昔前の「怒れる若者たち」は反体制を唱え、行政に要求を突きつけた。行政を敵と規定しておきながら、行政にあれもこれも要求をするのは矛盾である。結局、大きな政府、巨大な官僚国家へ導く。それに気づき始めたのがベ平連(ベトナムに平和を市民連合)当たりに端を発した市民運動であろう。やがて社会主義国の崩壊が現実となり、大きな政府の欠陥が誰の目にも明らかになった。今や"small is beautiful"の時代になったのである。しかし、小さな政府では、国民の多様なニーズのすべてに応えるのは難しい。そこで登場したのが、NGOやNPOであり、ボランティアである。要求型住民運動に代わって参加型住民運動の時代になったのだ。食に不安を持つ人は無農薬産直運動、福祉に関心のある人は福祉ボランティアといった具合である。オンブズマンなどもある。革新陣営があらゆる要求を汲み上げて代理戦争をするのではなく、住民自身がそれぞれの個別要求を掲げて行動する時代の到来である。総資本対総労働といった図式はもはや古い。頭の固いオジンたちが、いくら口で革新を唱えようと、旧来の路線を踏襲する限り、それは超保守である。守旧派と言われても仕方がない。若者たちに置いてきぼりをくい、歴史のゴミ溜に捨てられてしまう運命にある。

(1997.2.9 稿)


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更新日:1997年8月19日