岩松 暉著『山のぬくもり』23


天ぷら若ちゃん

 妻と陶器市へ行って来た。全国の窯元直売と銘打っているだけあって、見事なものがたくさんあった。何10万円もする壺などには手が出ないから、目の保養で済ませ、結局、500円均一のコーナーで足を止めた。小さな女の子が自分の湯飲みを物色している。ピンク色の小ぶりなのが気に入ったらしい。お母さんは、「底に定価のラベルが貼ってあるでしょ。1,000円でも2,000円でも500円均一なのだから、なるべく高いものにしなさい。」と言って取り合わない。どうも女の子の希望は無視されたらしい。私たちもラベルをちょっと気にしながら、色合いのいいものを選んで、湯飲みを買い求めてきた。家に帰ってきてから気が付いた。「天ぷら若ちゃん」と文字が入っているではないか。「若ちゃん」という天ぷら屋さん専用に作ったものの余りだったのだ。やはりブランドや値段ではなく、実質で選ばなければならなかったのである。
 人材も同じである。銘柄大学卒業というだけで採用して手痛い目にあった失敗談をよく聞く。見映えがよくても実用的でなかったり、学校での勉強に優れていても視野が狭くて、「若ちゃん」湯飲みと同じように他では使いものにならない例など多々ある。わが大学の学生を見ていても、都会の有名進学校出身者よりも、田舎出のほうが伸びるケースが多い。

(1997.1.19 稿)


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更新日:1997年8月19日