岩松 暉著『山のぬくもり』22


大巡検の生態

 わが鹿大地学科には大巡検というカリキュラムがある。鹿児島は火山しかないから、日本の代表的な地質を見学するのが目的である。昨年(1996年)は中部地方に行った。費用は自己負担だから、公的施設の安いところに泊まって、そこをベースキャンプにバスであちこち出かけることにした(バス借り上げは公費負担)。
 公的宿泊施設は、もちろん大部屋で雑魚寝である。差額を払ってもよいからシングルにしたいという申し出があった。長い教員生活で初めての経験である。高校の修学旅行と違って枕投げなどしないだろうが、仲間たちとわいわいやるのは楽しいものだ。今の学生は集団生活は嫌いらしい。
 単なる観光旅行ではないから、事前にかなり勉強する。みんなで手分けして文献を読み、立派なパンフレットを作成したり、地形図を用意したりする。宿泊費や博物館の入場料など会計係も必要である。中心になっていろいろ世話をする数人と全く非協力なその他大勢とにはっきり分かれた。鹿児島の地図センターでは遠隔地の地形図などそれほどたくさん在庫はない。やむなく出発前週の金曜日にコピーすることになった(本当はコピーは違反)。ところが非協力組は、さっさと出発してしまって当日来ない。土日向こうで遊ぶつもりらしい。さすがに世話役組も堪忍袋の緒がきれて、彼らの分コピーするのを止めてしまった。
 公的施設は宿泊費は安いが、食事代で儲けようとする。山の上にあって周辺に食堂はない。団体なのだから安い特別メニューを作ってくれるよう、交渉してみたらと言ったのだが、値切ったりするのはできないらしい。結局、全期間夕食はコンビニ弁当で済ませた。飲み物や夜食のおやつなども買い込んでいたようだから、結構高くついたに違いない。
 全期間バスは同じ運転手さんとガイドさんだった。遠出のときには早く来てくれたし、遅くまでつき合ってもくれた。当初の契約にない大サービスである。せめてもの気持ちで、昼食代はこちらがもったが、最後にお礼を差し上げようかどうしようか考えていたところ、女子学生が代表して小さなプレゼントを贈呈した。石の博物館で買っておいたタイピンとペンダントだそうである。われわれが用意するタバコ代などより、数等心がこもっている。二人は大感激していた。今の学生も捨てたものではない。心優しい点では、昔の学生以上かも知れない。

(1997.1.19 稿)


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更新日:1997年8月19日