岩松 暉著『山のぬくもり』6


コンパ係長

 大学教授が世の中で大きな顔をできるのは、卒業生が実社会で活躍しているからである。リクルートに来られた会社幹部が、「先生の教え子の誰それは大変有能です。あのような学生をください。」などと例示する人の学生時代には共通する点がある。こつこつと勉強するくそ真面目人間ではなく、コンパというとしゃしゃり出て采配を振るうコンパ係長が多い。コンパ係長は大変である。メニューを考え、材料買い出しの手配をし、会場設営や調理を取り仕切る。会が始まると、全体の雰囲気を和やかに盛り上げ、頃合いを見計らってスピーチを頼んだり、酒が切れそうになると追加する。その気配りには感心する。
 こうした人物は、人の和をはかり人を使うことがうまいから、当然、会社の組織を動かすには向いている。それだけではない。段取り能力抜群だから、いざ卒論に取り組むとなると、調査や実験の方針を立て、それを着実に実行することができる。きっと会社でも新しい分野を開拓し良い仕事をするに違いない。
 しかし、今ではこういうタイプはほとんどいない。指示待ち人間にこうしたリーダーシップがないのは当たり前だし、第一、テレビゲームで育ったためか、人付き合いが不得手で、したがってコンパも嫌いである。もちろん、酒好きもいるが、「イッキ、イッキ」と勝手に騒ぐだけで、全体を見渡す配慮ができない。
 前述のように、優秀だと「誰それは優秀だ」とご本人が褒められる。反対に無能だと「○○大学にはこりごりした」と大学の指導のせいにされる。どっちにしても大学教授は割に合わない。最近は後者の例が多い。嗚呼!

(1996.12.28 稿)


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更新日:1997年8月19日