岩松 暉著『二度わらし』38


学力不足

 「新大学生の3人に2人が学力不足」、こんな記事が新聞に載っていた(読売新聞1999.2.1)。大学新入生の3人に2人が基礎学力不足という調査結果が文部省の委嘱調査で明らかになったという。中央教育審議会の「初等・中等教育と高等教育との接続の改善に関する小委員会」(座長・木村孟学位授与機構長)にも報告されており、大学教育と高校教育の間に大きなズレが生じていることを改めて浮き彫りにする結果となった、と解説されていた。この記事を読んで、大学人以外の方はにわかには信じ難かったに違いない。激烈な受験戦争を勝ち抜いたエリートとの学生像をまだ持っている人が多いからである。一方、大部分の大学人は実態に近いと思ったであろう。第三次ベビーブーム後、大学全入時代になって加速度的に学力が低下してきたからである。本学でも工学部では数学と物理の補習教育が行われていると聞く。高校時代に物理を習わずに工学部に進学してきた学生もいるらしい。
 そこで、学部が昔の高校レベルと割り切り、修士課程で専門教育をするのだという人もいる。しかし、「鉄は熱いうちに打て」というのは何時の世でも真理である。大学はレジャーランドと心得、若い柔軟な頭脳の時に遊び呆けてしまうのは実にもったいない。それに教員も院生も大学院は研究をするところだとの意識がまだ濃厚だから、修士になってしまうと、基礎的なことを軽んずるし、汗水垂らしてデータを取るような地道なことをやりたがらず、一見格好のよい小ぎれいなテーマに飛びつく。本物は育たない。

(1999.2.3 稿)


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更新日:1999年2月4日