岩松 暉著『二度わらし』36


温泉めぐり

 私は日頃出張が多い。罪滅ぼしにこの正月休み、妻と温泉めぐりをした。鹿児島は元々温泉国だが、昨今の村おこしブームで、どの町にも公営の温泉浴場ができた。どれも真新しくて設備がよい。打たせ、気泡湯、超音波にサウナ、何でもある。それに300円と安い。今回は主として海の温泉に出かけた。志布志の太平洋も雄大だったし、東シナ海の夕日も見事だった。うまい魚料理を食べ、温泉に浸かっていると、まさに天国である。
 息子に運転させようと誘ったが、見事に断られた。私もかつては温泉なんて爺くさいと思っていた。いい湯だなと長湯しながら、子供がはしゃいでいるのをニコニコ見ている自分に気がついて、俺も年を取ったのだなあと実感した。息子に断られたおかげで、夫婦水入らず、毎日ドライブを楽しんだ。定年後の老夫婦とはこんな感じなのだろうか。もっとも年金が潤沢にあればの話だ。せいぜいわが家の風呂に入浴剤でも入れて、温泉気分を楽しむのが現実かも知れないが。

(1999.1.3 稿)


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更新日:1999年1月4日