岩松 暉著『二度わらし』31


ネチケット

 世はインターネット時代、大変便利になった。出張勝ちな私にとて、とくに電子メールは重宝である。しかし、ホームページを公開していると、迷惑メールも多くなる。
 まず、さまざまなDMが来る。ひどい例では、財テクからポルノ販売まである。少し長期の出張から帰るとメールがどっさり溜まっているから、重要な用件のメールまで、こうしたゴミメールに埋もれて、見落としたことがあった。どしどし捨てることにしているが、誤って隣の大事なメールまで削除したことがある。紙のDMは封筒でわかるから、開封しないで捨てるが、電子メールは少なくとも最初の部分は強制的に読まされるから腹立たしい。
 次ぎは質問メールである。「聞くは一時の恥」とはいうものの、百科辞典か参考書で調べればすぐわかるものまで聞いてくる。中には明らかに学校の宿題とわかるものや、岩石の顕微鏡写真を添付してきて岩石名を聞いてきたものまであった。手紙を書くのに比べて電子メールは手軽だから、気安く聞いてくるのだろう。
 請求メールもある。災害の報告書を送れといった類いである。不思議なことに、どういう訳か、所属不明で個人名の送り先だけ書いてあるものが多い。内容から察するに、いわゆる民主団体と称する住民団体の人らしい。代金や送料のことなど全く無頓着である。公務員は税金で飼っているのだから、当然人民に奉仕すべきだという臭いがプンプンする。もちろん、国費で刷ったのだから無料に決まっている。しかし、送料も含め、こちらの研究費を削って出していることには考えが及ばないらしい。少しでもお役に立って欲しいとお送りしているが、礼状が来ないことさえままある。ところが、桜島の火山灰を送って欲しいという中学校の先生や生徒さんたちのお願いは、これまたどういう訳か大変丁重で、送料のことまで尋ねてくるし、必ず礼状も来る。意外に黒いのでびっくりしたなどの感想まで書いてある。これはうれしい。
 インターネット時代にはそれなりのエチケットが必要である。ネットのエチケットだからネチケットというのだそうだ。電子メールは手紙と会話の中間ぐらいの位置付けだろうから、「拝啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます」といった枕詞は不要だが,氏名だけでなく、所属と連絡先を付けるのが最低限のネチケットであろう。

(1998.12.13 稿)


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更新日:1998年11月23日