岩松 暉著『二度わらし』30


取材地質学

 地質屋は必ず露頭のスケッチを行う。どの地層がどこへ続いているか、不整合面や断層面がどれなのかなど、さまざまな地質学的情報を克明に描く。したがって、スケッチを見ればその人の地質屋としての力量がわかる。同じ露頭のスケッチでも、駆け出しの時とプロになってからとでは全く違うのが普通である。初心者は、絵画的に上手に描こうと、陰影までつけて立体感を出そうと苦心するが、肝心の地質学的情報が盛り込まれていない。露頭から地質学的情報を読み取る力がないからである。
 そこで、最近の学生たちは、自分で露頭を観察せずに、私のスケッチをスケッチしようとのぞき込む。これを取材地質学という。だから、この頃は学生の前ではスケッチをしないことにした。もっとも取材地質学はよいほうで、写真を撮れば済むと思っている者も多い。しかし、これはダメである。スケッチと違って色まで再現されるが、地質学的に意味のある線も、無意味な線も同等に写るから、結局、後になると何を目的に写したかわからなくなるからである。何よりもスケッチするためには必然的に観察が細かくなるから、地質屋としても観察眼が鍛えられるが、写真で済ませる学生の観察はおざなりのものが多い。もっとひどい例では、どの露頭も全部砂岩泥岩互層と一言書いただけでスケッチなしの豪の者もいた。

(1998.11.28 稿)


前ページ|ページ先頭|次ページ

連絡先:iwamatsu@sci.kagoshima-u.ac.jp
更新日:1998年11月28日