岩松 暉著『二度わらし』26


絵本の思い出

 わが家には絵本や児童書がずらりと並んだ部屋がある。かつて家庭文庫をしていたくらいだから、3,000冊はくだらないだろう。こんなに集まったきっかけは娘の誕生である。当時、田舎町の本屋には『いぬとねこ』といったありきたりの絵本しかなかった。そこで東京出張の折など、丸善に立ち寄って良書を買い求めたものである。これは誕生日のプレゼント、これは出張のみやげ、一つ一つ懐かしい。「おとうちゃん、これ読んで」とやってきて、私のあぐらの中にちょこんと座った。気に入った本はくり返しくり返し何十回も読まされた。読み違えると、「『けろろん けろろん』じゃないでしょ。『けろろん ろんろん、けろろん ろん』よ」と訂正する。本人は全部暗記しているのである。それでも毎日やってくるのは、あぐらの中にすっぽりおさまって、ゆすられていることが好きだったのだろう。
 その娘が新婚旅行に発った。久しぶりに手垢に汚れたぼろぼろの絵本を読んでみる。何と形容してよいかわからない複雑な気持ちがした。

(1998.9.16 稿)


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更新日:1998年9月16日