岩松 暉著『二度わらし』25


娘の結婚

 一人娘が結婚した。いずれその時はやってくる。覚悟はしていたものの、2年前の正月、ボーイフレンドを連れて帰省した時にはさすがに少し緊張した。同じアパートの住人という。会ってみたら、誠実そうな好もしい青年だったので、正直に言ってホッとした。昨年の正月もやってきた。「誠実そうな」ではなく、本当に誠実なしっかりした人物で、われわれ夫婦は、二人が早く結婚に漕ぎ着けることを期待するようになった。わが娘ながら人を見る目があるなあと感心した。
 春になって、この秋結婚すると言って来た。結婚式はせず、自分たちの貯めたお金で、両方の両親と弟たちを温泉旅行に招待するのだという。結納→結婚式という慣習に従うのかと思っていたから、少々びっくりした。単にお金を倹約するだけの、今はやりのいわゆる「地味婚」とも違う。なかなかユニークなアイデアである。ウム、ますます気に入った。
 そして先日、先方の両親と弟さんが鹿児島にお出でになった。3日間、昼は観光見物、夜はビールを乾して歓談した。通り一遍の結納交換では、互いの家庭事情や人柄などわからないが、おかげですっかり打ち解けて、旧知の間柄のようになった。それに両方の両親にとっては、旧婚旅行をさせてもらったようなものである。安月給からせっせと積み立てたのだろう。大変うれしかった。こうして、この一組の新婚旅行と二組の旧婚旅行というアイデアは大成功に終わった。
 今頃は二人だけの本当の新婚旅行をしている頃である。末永い幸せを祈る。

(1998.9.16 稿)


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更新日:1998年9月16日