岩松 暉著『二度わらし』24


またたかない星

 「星はまたたき、夜はふける」と歌われる。日本では星とはまたたくものだ。しかし、ゴビではまたたかない。高燥な気候のせいで、水蒸気が立ち上らないからだという。それに地平の果てまで明かりが一つもない漆黒の世界、満天の星はそれはそれは見事だった。久しぶりに天の川を見た。百武彗星を観察したとき以来である。
 星を見ながらまた日本のことを考えた。夜の衛星画像を見たことがある。見事に日本列島の輪郭が浮かび上がっていた。何とも異常だ。こんなにエネルギーを浪費してよいのだろうか。子供たちが夜遅くまで盛り場をうろつき、塾帰りにコンビニで雑誌を立ち読みしている姿が目に浮かぶ。彼らの父親も残業残業で追いまくられているのだろう。第一、私自身何となく忙しく毎日を過ごし、夜はパソコンに向かって原稿を書いている。すっかり星空を見るゆとりをなくしていた。夜空が明るいという物理条件もさることながら、心のゆとりをなくしているほうが問題である。
 衛星画像で真っ黒だったのは北朝鮮とモンゴルである。北朝鮮は経済活動の停滞を意味しているから、あまり好ましい状態ではないが、夜は暗いのが自然である。夜の世界は妖怪やお化けたちに返してあげようではないか。

(1998.9.3 稿)


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更新日:1998年9月4日