岩松 暉著『二度わらし』20


山の怒り

 ゴビ砂漠に行ってきた。南ゴビから北上するとだんだん緑が濃くなって草原になる。やがて花崗岩の山地に入った。板状節理の発達したすばらしい景色のところである。まるでお供え餅を重ねたよう。ここで最後のキャンプを張った。今日で同行した牧民たちともお別れ、キャンプファイアーをやろうと、彼らがゲルを設営している間に付近から枯れ木を集めてきた。低い潅木がまばらに生えている程度の山だが、結構集まった。盛大な焚き火を囲みながらの宴の最中、連れてきた14歳の子供が「山が怒る」とつぶやいたという(私が直接聞いたわけではない)。
 砂漠では焚き木は貴重である。彼らは乾燥した家畜の糞を燃料にしている。こんなに惜しげもなく枯れ木を無駄に燃やすようなことは恐らく絶対にしないであろう。われわれ日本人は森林国の人間、枯れ木で焚き火をすることなど何でもない。しかし、風土の違いと軽く考えてはならない。飽食の日本、浪費の日本が手厳しい批判を受けたのである。少年の自然に対する畏敬の念と物を大切にする気持ちを謙虚に学ぶべきなのではないだろうか。わが国でも「もったいない」という言葉の復権が必要だと思う。

(1998.7.31 稿)


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更新日:1998年7月31日