岩松 暉著『二度わらし』18


若者の必須栄養素

 インターネットを通じた友人からメールが来た。まだお目にかかったことがない。文通友達をpen palというから、さしずめnet palである。富山県山田村で開かれる「電脳村ふれあい祭」というイベントでボランティアをやっておられる由。山田村は全世帯にパソコンを配ったとしてマスコミで話題になったところである。そのメールに、
 「今年は私もこのボランティアに参加させて貰っていますが、学生さんたちの積極さと、ひたむきな努力に感動させられっぱなしです。月並みな言い方ですが『今の学生もすてたもんじゃないなぁ』という気持ちです。こんなに真剣な学生もいるのに、マスコミなどで『最近の学生はイカン』などというのは、彼らに失礼だなと感じました。自分もどちらかと言えば『大学生不要論派』だったのですが、今回のボランティアでいかに自分の視野が狭いのか気付かされました。」 とあった。
 確かに若者はいつの時代もすばらしいエネルギーを潜在的に持っている。そのエネルギーを引き出す役は大人社会の責任である。戦後復興期や高度成長期には、努力すれば報われる、今よりもよくなるとの夢があった。しかし、現在は低成長どころか不況の真っ最中、将来の展望が見えてこない。夢は若者にとって必須栄養素である。栄養失調では力も出ない。将来に展望があればプロになるための厳しいトレーニングにも耐えられる。今の学生が無気力なのは、そこに原因があるのだろう。右肩上がりの価値観とは違った新しい夢を若者に与えなければならない。
 もっともボランティアは一生懸命やるが、専門の勉強はサッパリという学生がいることも事実である。職業となると栄養のためには不味くても食べなければならないものもあるが、趣味ならば自分の好きな美味しいところだけを食べれば済む。これはフリーターでも食えたバブルの頃の後遺症で、もうこうしたモラトリアムは許されない時代になったから、やがてしっかり仕事をした上で、余暇にボランティアを真剣にやる本物のボランティアの時代になるであろう。

(1998.7.17 稿)

参照:『山のぬくもり』…ボランティア
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更新日:1998年7月17日