岩松 暉著『二度わらし』17


アルキメデス

 土木地質学という講義を担当している。土木だから当然土質力学の知識も必要になる。工業高校の教科書程度でよいから自習しておいて欲しいと、学期初めに参考書などを紹介しておいた。さて、どの程度実行しただろうかと、高校教科書の例題をそのまま使って、ショートテストをやってみた。見事ほとんど全員0点だった。地下水面下のある点における土被り圧など、浮力の問題である。中学校で教わったアルキメデスの原理そのものだ。
 唯一できていたのが密度を求める問題である。質量を体積で割るだけだから、こんな問題を大学生に出すのは失礼千万だが、式もなしに、101.74/56.52=1.8としか書いてない人が多かった。有効数字のことはまったく念頭にないし、単位を付けている人も少ない。小中学校ならこれでも正解だろうが、高校大学なら0点である。恐らく実験をやったことがないからだろう。
 もっとも、この話をしたら、いわゆる旧帝大系の大学院大学に勤めている友人が、大学院生でもcos4θのグラフが描けないと嘆いていた。波長の話は知らなくても、0度とか90度とか適当な値を入れてみればすぐわかるのに、そうした臨機応変ができず、cosθなら知っているが、cos4θは教わったことがないと、端から諦めるのだそうだ。これでは科学技術立国などとてもおぼつかない。

(1998.7.12 稿)


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更新日:1998年7月12日