岩松 暉著『二度わらし』14


社会人講師

 学科会議で共通教育(いわゆる教養教育)の非常勤講師のことが話題になった。名誉教授の先生方にお願いしていたのだが、年齢制限に引っかかるお年になられたので、後任をどうしようかという議題である。私は市内在住の地質コンサルタントの方にお願いしたらどうかと提案した。今の学生は学問をしたくて大学に進学した訳ではないし、学科も偏差値でコンピュータが選んでくれたに過ぎない。低学年の共通教育では学習の動機付けこそ一番重要である。生きた現実社会の話をしてもらうのは刺激になるに違いない。そう説明したが、学歴が少なくとも修士修了以上でないとダメだと却下された。同等の力があればよいとの「みなし規定」を準用すれば可能なはずだが、コンサルタントなど程度が低いと思っているのだろう。大学人の思い上がりが背景にある。
 いや、大学人と一般化するのは正しくない。実際、私学ではにこうした社会人講師は普通に行われている。私の友人でも、先物取引だの、日本の不況がアジア経済に及ぼす影響だのといった今日的話題を大学で講じている金融マンがいる。入学したらまず基礎からと、いきなり経済原論の講義をされるより、数等興味がわく。なかなか好評らしい。このように、私学は少子時代を深刻に受け止め、経営努力を怠っていない。一方の国立大学は、親方日の丸のためか、官僚的体質が染み込んでいるためか、時代に適応していこうとの姿勢が弱い。これでは国立大学のほうが先に淘汰されていくであろう。

(1998.7.4 稿)


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更新日:1998年7月4日