岩松 暉著『二度わらし』13


寮友

 僚友ではない。寮友である。昔の学生寮時代の仲間が集まった。友が第二の人生を歩むというので、送別会である。全部初めの会社とは違う会社に勤めている。いつの間にかそんな年齢に達したのだ。白髪・黒髪、はてはヤカン頭とさまざまだが、会えば学生時代に戻る。共に寮運営に苦労したこと、酔って肩を組み放歌高吟しながら夜の街を徘徊したこと、などなどいっぺんに蘇える。
 談論風発、昨今の経済情勢に及んだり、若くして亡くなった友の話にしんみりしたり、話題はあちこちに飛んだ。外資系の会社に勤めている人と日本の会社に勤めている人とで、まったくセンスが違うのも面白かった。しかし、一番印象的だったのは、数年前一流銀行を早々辞め、年金生活を送っている友の話である。大病を患ったのを機会に退職したとのこと。彼は有能だったから、そのままいれば、今頃は相当のポストにいたはずである。顧客や上役に媚びて出世競争に励むより、日々是好日の生活がどんなによいことか、と言っていた。死線をくぐった人の達観がある。嫁いで外国にいる娘のところを回ったり、庭をいじったり、ボランティアをやったりしているらしい。高校の臨時講師をやって高校生に生きた経済の話をしてやりたいとも言っていた。なかなか意欲的で隠遁生活どころではない。
 彼だけでなく、人それぞれに人生があり、味わい深い話があった。寮友は専門も違うし、仕事の上での利害もない。純粋に人と人との付き合いが出来る。互いに悪友と言い合っているが、やはり良友である。

(1998.6.28 稿)


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更新日:1998年6月28日