岩松 暉著『二度わらし』11


テレビにらんで20年

 ある地学系出版社の社長さんと電話で話をする機会があった。学生でも買えるよう、ペーパーバックにするなど、装丁に凝るのはやめてなるべく安くして欲しいとお願いしたところ、ここ2・3年、本の売れ行きがガクンと落ちて、専門書だと500部売るのに四苦八苦するとの返事であった。だから少々高い本にして、少ない部数で元を取ろうというのであろう。それから出版業界の苦境について、グチが次から次へと出てきた。曰く、
 某中堅取次店は倒産し、某大手取次店ではボーナスが欠配した。東京の某大手書店では前年比20%売上が落ちた。学生だけでなく大学の先生も本を買わなくなった。等々。
 最後の項はびっくりしたが、あとはうなずける。参考書を推薦しても買わないが、教科書とか副読本とか言うと、3000円以上でも全員買うから、単なる不況のせいではない。活字離れが言われて久しいが、2・3年前から質的に変わったことは学生と接していてわかる。若手同僚の解説によると、彼らは生れ落ちたときからのファミコン世代だからという。それ以前は、少なくとも幼児期、絵本を読んだり外で遊んだ経験があるのに、今の十代は最初からテレビ画面と向き合って育った。達磨大師の面壁九年ならぬ、テレビ画面にらんで20年である。光に対する反射的反応は前の世代より優れているが、じっくり考えることは苦手だから、本を読まないはずである。  

(1998.6.13 稿)


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更新日:1998年6月13日