[地質調査こぼれ話 その18]

痔疾学者にならないために


 地質屋は沢の中をジャブジャブ歩き,石に腰かけてスケッチする。どうしても腰を冷やす。文字通り石の上にも3年,大学院の博士課程に行く頃になると,痔になる。「お前もこれで一人前の地質屋になったなあ」と言われる。私も御多分に漏れず,その頃ジワルジストになってしまった。早速,徳山 明さん(現在兵庫教育大)が東大病院の友人に電話してくれる。恐る恐る外科へ行くと,何と顔見知りの看護婦さんがいるではないか。マズイ。寮に住んでいたため看学寮とも交流があり,看護婦さんには知り合いが多い。その日は出直す。彼女が非番の日に診てもらう。「地質の院生がまた来たな。ドクターコースか,博士病だな。ハッハッハ」と笑われる。以来10数年,痔とは長い長いお付き合い。遂に貧血が悪化。手術の覚悟を決める。鹿児島一の名医と評判の高い鮫島肛門科を訪れる。先代の先生に手術してもらったという地質の某先生の紹介である。痔の手術はものすごく痛いという。しかし,麻酔が利いて何ともない。な〜んだ。ところが,その後がいけなかった。他の人は3週間で退院したのに,私は,長い間放置していて重症だったらしく,1カ月も留め置かれる。その間,何度か痛い目に合う。でも,それから今日までずっと何ともない。ウソのようとは,まさにこのこと。さすが名医である。
 そこで,名医の鮫島先生にお聞きした,痔にならないための10カ条を紹介する。解説は私が勝手に付けた。

―肛門病の予防10ヶ条―

  1. 毎日入浴する
     血行が良くなり,清潔にもなる。最高の予防法の由。その意味でも,テントや車に 寝泊りする調査は感心しない。
  2. お尻は清潔に
     汚いと細菌が繁殖する。お湯で洗うのが一番。最近は温水洗浄器が売られている。 数万円するが,ひとつ奮発しては。貧乏人は,アセトンなどを入れるポリエチレン洗 浄瓶に,その都度お湯を入れて使うとよい。ただし,劇薬が入っていたもののお古は 危険。数百円で買えるから,新品を購入すること。
  3. 便秘は大敵
     フィールドでは今でも汲み取り式の便所が多い。ポチャーン。オツリがくる。慣れ ないとついつい便秘になる。また,フィールドでは食生活も激変する。大食になる。 これも便秘の原因。硬い便は切れ痔や出血を招きやすい。ご用心。バナナ程度の柔ら かさがよい由。
  4. 下痢もダメ
     細菌感染や充血を招く。神経質な人は食生活の変化に弱い。早く旅慣れるようにし よう。地質屋は旅行が商売なのだから。
  5. 排便は力まずゆっくりと
     力むと出血する。重い物を持つのも良くない由。しかし,石を背負うのは地質屋の 仕事。サンプルはまとめて採らずに,毎日少しずつ運ぼう。
  6. 腰を冷やすな
     フィールドには替ズボン持参。沢に入って濡れたら,翌日は乾いたものと交換する こと。
  7. 座りっぱなし,立ちっぱなしはダメ
     石や湿った土の上に座るときは,敷物をしく。猟師がお尻にぶらさげるカモシカの 敷皮が最高。ただし,カモシカは天然記念物で狩猟禁止だから,他の動物で我慢しよ う。
  8. 長時間ドライブもダメ
     やはりお尻が充血する。遠距離のフィールドへ車で出かけるときは,時々休んで体 操を。交通事故防止にもなる。
  9. 酒・胡椒・芥子など刺激物は避ける
     山男は飲んべえが多い。これが一番きついかな?
  10. 素人療法は厳禁
     最近は肉食に伴って大腸ガンが増えている。胃潰瘍でも出血する。肛門出血イコー ル痔ではない。痔かどうか正しい判断が必要。必ず専門医へ。

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連絡先:iwamatsu@sci.kagoshima-u.ac.jp
更新日:1997年8月19日