[地質調査こぼれ話 その1]

すばらしきかな地質屋稼業


 地質調査は決してつらい苦しいいやな仕事ではない。それどころか,野外調査ならではの,すばらしい楽しみが待っている。第一,仕事が楽しくなくては,義務感だけで一生続けられるわけがない。その点,地質屋稼業は,趣味と実益を兼ねたいい商売である。私は,次のような楽しみを見出している。

◎太古の世界に遊ぶ
 こせこせした浮き世を離れ,億年の昔を考えるスケールの大きさ。それだけで寿命が延びる。太古の世界は,穏やかに波が打ち寄せていたのだろうか,火山が天を焦がしていたのだろうか。いろいろ想像するのも楽しい。
◎謎解きの楽しみ
 探偵は僅かの証拠から犯人を推理する。地質屋もコツコツとデータを集めて,地質現象を解き明かす。苦しい暗中模索。少しずつイメージがはっきりしてくる。最後に壁を突破して,いろいろな事象が全部スッキリと説明できたときの例えようもないうれしさ。Break through! 科学の醍醐味ここにあり,である。
◎人さまの役に立つ
 地質学は実社会とも密接にかかわっている。私の専攻する災害地質学は,とくに人間くさい。災害現場に立つといつも胸がいたむ。しかし,学問的成果が防災対策に生かされ,災害が少しでも減るのはうれしい。応用地質学に限らず,他の分野でも直接間接社会に貢献している。きっと同じよろこびがあるものと思う。
◎自然にふれる
 青空の下,山を行く。木の香り,鳥のさえずり。気分爽快になる。昼食後,寝転んで雲を眺めるのも捨てがたい。「俺たちゃ街には住めないからに」の心境がよくわかる。
◎健康になる
 私は,教養学部の頃,喘息で入院休学したことがある。しかし,地質屋になってから,ウソのように治ってしまった。やはり,せっせと山歩きしたためらしい。医学部進学をふって,今でもよかったと思っている。もっとも,ジワルジスト(その18参照)にはなったが。
◎旅行の楽しみ
 私の恩師木村敏雄先生(現東大名誉教授)は,現役時代年に100日以上フィールドに出かけられたという。私も同じくらい出張する。北から南まで足を踏み入れなかった県はない。どこに行っても,すばらしい景色と地酒がある。郷土料理の味も忘れられない。火山学なら温泉に浸れる。
◎人との出会い
 フィールドでは,民家に泊めていただくことも多い。マンガを読んであげた女の子,奥さんの手料理,ご主人と歌った民謡,一緒に行った夏祭り・盆踊り,みんな懐かしい。下宿生にとって団欒の味は格別だった。今では親戚同様になっている。コンクリートジャングルと違って,田舎には人情がある。恋人を見つけた人もいる。
◎フィールドでの趣味
 私の趣味は野の花の写真を撮ること。雑草でも接写すると,それはそれは美しい。故久野 久先生は民家の写真,木村先生はバードウォッチング,故鹿間時夫先生はこけしの収集,故木下亀城先生は郷土玩具,人さまざまである。地質屋とくに化石屋はコレクションマニアが多い。無趣味な者はただひたすら地酒を飲む。いや,みな山歩きが最大の趣味であろう。


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連絡先:iwamatsu@sci.kagoshima-u.ac.jp
更新日:1997年8月19日