書評『ウェブ進化論―本当の大衆化はこれから始まる』

岩松 暉(GUPI Newsletter No.32 p.3, 2006)


 Google Earth をご覧になったことがありますか。世界中の衛星写真を見ることが出来ます。東京なら横断歩道の縞模様も車もわかります。アフリカでは動物や人間も判別できるところがあります。しかもこれが無料で自由に見られるのですから驚きです。 こうしたチープ革命が切り開いた現象を本書ではWeb2.0の世界と言っています。著者梅田望夫氏はシリコンバレーでコンサルティング会社を創業したIT分野の若い知的リーダーの一人です。
 今までもIT時代、インターネット時代と言われてきましたがこれはパソコンの進歩と低廉化、通信インフラの整備と高速化に裏打ちされた主としてハードの世界、「こちら側」Web1.0の世界でしたが、これからはインターネット・チープ革命・オープンソース*という次の10年の三大潮流が相乗効果を及ぼすネットの「あちら側」が主役の世界、Web2.0の世界になるのだそうです。Web2.0を「ネット上の不特定多数の人々(や企業)を、受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービス開発姿勢」と定義しています。「こちら側」の代表がマイクロソフトやインテルで、「あちら側」の代表がグーグルというわけです。実際、グーグルマップはAPI(Application Program Interface)まで公開しています**。ロングテール現象というのにも興味を持ちました。尻尾の長い恐竜のイメージです。出版物を例に取ると、縦軸に販売部数、横軸に個々の出版物をとり、売り上げ順に並べれば、ベストセラーは恐竜の頭で、ほとんど売れない専門書や稀覯本が尻尾(ロングテール)です。在庫をあまり持てないリアル世界の本屋さんは恐竜の頭だけしか置いてありませんが、Amazon.comのようなネット本屋さんは、このロングテールで売り上げの1/3程度を稼いでいるのだそうです。つまり、(≒無限大)×(≒ゼロ)=Somethingです。地質調査業も今まで公共事業という恐竜の頭で稼いできましたが、これからはロングテールを照準としたビジネスモデルを考究しなければならないでしょう。
 また不特定多数無限大への信頼も次代のキーワードです。今までは情報を囲い込んだほうが勝ちでした。これからは積極的に情報を公開し、マス・コラボレーション**で何事かを成し遂げていく時代です。Wikipediaというネット百科事典をご存知と思います。誰でも自由に書き込めます。誤りを書いてもすぐ誰かが訂正してくれるので、英Nature誌によれば、科学分野についてWikipediaとBritannicaとは正確さは同程度とのことです。  われわれ地質関係者にとっても示唆に富む本です。一読をお勧めします。 (岩松 暉)
* GUPIのWeb-GISマップサーバも全部オープンソースフリーソフトで構築しました。
**「みんなでつくる世界地質案内」もグーグルのAPIを使って30分ほどで作りました。
梅田望夫著『ウェブ進化論―本当の大衆化はこれから始まる』ちくま新書, pp.256, \777

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更新日:2006年4月12日