書評『新しい高校地学の教科書』

岩松 暉(GUPI Newsletter No.31 p.4, 2006)


 講談社ブルーバックスから高校理科教科書シリーズが刊行されました。帯には「これだけは学んでおきたい現代人のための検定外教科書」とあります。高校生だけでなく、少しでも科学的な素養を身につけたいと願う社会人、もう一度きちんと学習したいと考える社会人、物理・化学・生物を勉強せずに理工学部に入ったり生物を勉強せずに医学部に入ったりした大学生、試験問題は解けるのだがものごとの本質がよくわかっていないと感じる大学生も読者対象としたそうです。
 本書はその地学編で、著者の杵島正洋氏(地質)・松本直記氏(気象)は慶応義塾高校教諭、左巻健男氏(理科教育)は同志社大学社会学部教授です。
 評者は半世紀前に高校で地学を教わりましたが、本書を読んでみて、隔世の感を強くしました。当時の教科「地学」は地質鉱物・天文・気象が木に竹を接いだように寄せ集められただけでしたし、地表付近で見られる現象の羅列の域を出なかったように記憶しています。しかし、本書では宇宙の果てから地球深部まで相互に深く関わっていることが、最新の研究成果に基づき物理・化学の眼で統一的に説明づけられており、なるほどそうだったのかと納得させられました。高校物理などは今でもニュートン力学主体でしょうから、これほど劇的に変化したのは地学が一番でしょう。プレートテクトニクス誕生前に社会に出た人だけでなく、10年以上前に学校を出た人もぜひ一読されるようお勧めします。とくに、各節の冒頭にある設問が解けなかった人は必読です。最新の学問的成果が取り入れられていると同時に、各所に興味深いコラムが配置され、読みやすく工夫されています。技術士や技術士補受験にも役立ちそうです。
 ただ、あまりにも理路整然と説明されているため、自然界は謎だらけで、驚きに充ち満ちているとの感動を与える点では、少々物足りなく思いました。実験・観察・野外実習のヒントなどをまとめたコラムがあっても良かったのではないでしょうか。現在、初等中等教育から大学まで座学中心で野外実習や観察が軽視されています。事故に対する配慮もあるのでしょうが、日頃の生活が自然離れしていることも一因でしょう。野外へ目を向けさせる導入が欲しかったと思います。また、21世紀は地球環境時代、自然回帰の時代です。未来の地球環境に思いをいたし、実践に取り組む健全な市民を育む視点も高校理科教育にとって欠かせない大事な点ではないでしょうか。その点もやや不満でした。 (岩松 暉)
杵島正洋/松本直記/左巻健男 編著『新しい高校地学の教科書』,講談社ブルーバックス,365pp., 2006年2月20日刊

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更新日:2006年3月31日