書評『地学は何ができるか―宇宙と地球のミラクル物語―』

岩松 暉(GUPI Newsletter NO.73, p.6, 2010)


 画家ゴーギャンは不朽の名作「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」を描いた。本書もまた、この根源的問いに最新の科学から迫ろうとの試みである。137億年前の宇宙誕生から説き起こし、いかにしてわれわれの母なる地球が誕生したのか、いかにして全球凍結や五大絶滅を乗り越えて生命は発展し続け、ついにはわれわれ人類が誕生したのか、その過程を淡々と科学的に論述しているが、それはまさに奇跡(ミラクル)の物語である。それを知れば、水と生命の星、われらの地球がいとおしくなるに違いない。まさに大地の女神ガイアである。そこから必然的に「どこへ行くのか」の問いに答が出てくる。それは決して核戦争や環境破壊の道ではない。自然環境と調和的共存をはかりながら文明を発展させ、命を紡いで行く道であろう。本書の狙いの一つがそこにあるのではないだろうか。
 多くの読者は縦割りの学科を一昔か二昔前に卒業したはずである。天文・気象・地形・地質を含んだトータルとしての地球を教わったことは少なかったに相違ない。しかも卒業後は、狭い己の専門分野で研鑽を積み、その道のエキスパートになったであろうが、意外にも他分野については一昔前・二昔前の知識しか持ち合わせないことがしばしばある。かくいう私も含めて、他分野の最新の学問的成果をフォローするゆとりも姿勢もなかった。本書は、門外漢にとっては少々歯ごたえのあるところは多々あるが、我慢して読み進めると、当たり前と思って深く考えなかったことにちゃんとした理屈があったり、積年の謎が解けたりと、目からウロコの思いをすることがしばしばある。久しぶりに知的好奇心を刺激された思いがして、最後まで通読した。己の専門分野の位置づけもはっきりし、今後の方向性を考えるきっかけにもなろう。ぜひ中堅・熟年の諸氏に一読をお薦めする。
 若者にもお薦めする。地学は暗記科目で面白くないというのが通説である。しかし、事実と論理に基づいて推論していく、学問の醍醐味を味わえる分野だということが本書を読めば実感できるに違いない。本書に啓発されて、地学を志す若者が多数輩出することを願っている。海野和三郎東大名誉教授も「人類の破滅を救う地学教育が必要だ」と強調しておられる。「地球探偵団」の一員になろうではないか。           (岩松 暉)
日本地質学会監修・地学読本刊行小委員会編(2009)『地学は何ができるか―宇宙と地球のミラクル物語―』愛智出版,2800円+税(申込:FAX 042-583-0968)

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更新日:2008年9月23日