『戦う動物園』によせて

岩松 暉(GUPI Newsletter No.18, p.4, 2006)


 廃園直前に追い込まれた旭川市旭山動物園長と実際に一度は廃園になった北九州市到津の森公園長の著書です。これら南北2つの動物園は奇跡の復活を遂げたとして有名です。とくに旭山動物園は上野動物園より入場者が多いとか。「はじめに」でこの旭山動物園小菅館長がこんなことを書いておられます。
 動物園は一般の人にとっては、信じられないくらいどうでもいい存在であることに気付きました。なぜだろう? 簡単なことでした。…(中略)…お客さんは動物のことはまったく知らないのです。お客さんに動物の凄さを実感してもらえば、みんな動物に魅入られたように夢中になるはずです。そうすれば動物園はどうでもいい存在ではなくなる…
 地学もいま一般の人にとってどうでもいい存在なのではないでしょうか。動物園が廃園の危機に見舞われたときの状況と、今の地学をめぐる状況は同じように思います。地学は本当に面白い学問だ、自分たちの生活に不可欠なものだと一般の人に認知されなければ、明日はないのです。地球上に住む以上、地学は必要だと自分たちだけで自己満足していても何もなりません。どん底にいるのだとの危機感を共有する必要があります。そこが再建への出発点です。地学の世界では、まだ大学・研究所・会社といった中だけで当面の業績を挙げることに汲々としているように思います。成果主義に煽られ、保険料を免除してでも回収率の数字を上げた社会保険庁と同根です。目が外に向いていなくて、内輪の論理だけが横行しているように見えます。両動物園がどん底から逆転攻勢に出て成功した教訓に学ぶ必要があるのではないでしょうか。(岩松 暉)
小菅正夫・岩野俊郎著、島泰三編『戦う動物園』、中公新書、2006年7月刊、840円.
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更新日:2007年11月7日