地質多様性が自然をはぐくむ

岩松 暉(東京新聞サンデー大図解, 2007/10/28)


 エコは日本ではすっかり定着しました。一方、ジオもギリシア語の地球という意味で、地質学(ジオロジー)や地理学(ジオグラフィー)などに使われていますが、まだ日本では市民権を得ていません。
 母なる大地という言葉があるように、この世の生きとし生けるものはすべてジオの懐に抱かれて生活しています。例えば、蛇紋岩はマグネシウムに富んでいますから、蛇紋岩植生と呼ばれる特異な植生が生えます。北海道のアポイ岳や尾瀬の至仏山などが有名で、天然記念物になっています。同様に、砂岩と泥岩のところではお花畑の花の種類に微妙な違いが見られます。ワインもブドウ畑の地質や地下水によって味が違うとか。自然の渚がないところに渡り鳥はやってきません。自然多様性を守るためには、地質多様性を守らなければならないのです。ジオとエコとの協力協働が必要です。だからこそユネスコでは新しくジオパークという制度を始めたのです。イギリスでは地質多様性を守るアクションプランを作って実践しています。
 さて、ジオパークですが、創設者であるユネスコ前地球科学部長エダー氏によれば、「保全」が前面に出る世界遺産と違って、「教育」や「ジオツーリズム」など利活用に力点があるとのことです。日本は他国に比してジオパークがより重要だと思います。日本列島は環太平洋地震火山帯に位置し、かつアジアモンスーン地帯にも位置します。いわば災害列島だからです。地学に対する知識の有無が生死を分けることだってあります。地学は日本人にとって必要不可欠な国民教養なのです。
 ジオツーリズムも需要があると思います。団塊の世代は、地学必修だった世代ですし、地方出身者が多く、自然回帰指向が強いからです。一人でも多くの方がジオパークの中で自然に親しみ、大地のぬくもりを肌で感じていただきたいものです。われわれは大地の子なのです。

(NPO地質情報整備・活用機構会長)



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更新日:2007年月日