残雪の栃尾市半蔵金を行く―新潟県中越地震(第3報)―

専務理事 岩松 暉(GUPI Newsletter No.18, p.2-3, 2005)


 4月26日新潟県中越地震の被災地を再訪しました。そろそろ融雪期で融雪地すべりが発生しているのではと心配だったからです。今年は何十年ぶりかの大雪で、旧山古志村はまだ積雪があって立ち入り禁止、やむなく村境の栃尾市半蔵金を訪ねました。半蔵金はこぶし・梅・桜などが一斉に咲き、雪がまだらに溶けたところには蕗のとうが顔を出しています。一見するといかにも雪国の春らしいのどかな風景です。しかし、沢水は濁っており、融雪に伴ってまたどこかで崩れたのだろうとのことでした。地震の傷跡がいたるところにあるのです。「雪のむら消え」のこの時期が一番地すべり地形がよくわかります。写真上はその一つです。今回の地震ですべったのだそうです。
 興味深かったのは、諏訪神社(写真)が動いていたことです。地すべり地帯では、神社仏閣だけは不動地にあるものですが、その神社のある小高い凸部がまさにすべろうとしています。この神社のご神木「半蔵金の大杉、けやき」は樹齢800年と言われ、栃尾市指定文化財になっていました。地震で傾いたところに豪雪が重なったため、大杉は今年の元日バリバリと音を立てて裂け、落下したとのことです。ケヤキも地すべり安定のためと、神社再興資金の捻出のため、伐採されるそうです。村人の心の拠りどころだっただけに残念です。
 ここの地質は泥岩で、流れ盤をなしています。恐らく地すべり粘土などなく、すべりというより、ダルマ落としのように、重なっている地層を地震という槌がポンと横から叩いたため、はずれて落ちたという感じだったのではないでしょうか。他のところでも、砂岩泥岩互層中の固結度の低い砂岩層部分が“すべっている”例が多いそうです。やはり、地震の場合の“地すべり”は、すべり粘土のある通常の地すべりとは違うようです。  心配していた棚田の状態については残念ながら見ることは出来ませんでした。たとえ被害を免れた棚田でも地震によって水みちが変わったため、農業用水の確保が大変難しいだろうとのことです。開渠ではなくパイプ暗渠になったため、どこが破損しているのか探すのも困難との話も聞きました。ドル箱だった錦鯉の養鯉池についても問題があるそうです。水については棚田同様の問題もありますが、地すべりを助長するから規制をとの声も聞かれます。ゴムマットを敷くのは資金がかかりますし、水槽飼育と同じですから、何か問題は起きないのでしょうか。こうした産業のことも大変ですが、住宅再建も大問題です。大部分が高齢者世帯ですから、ローンを組むことも出来ません。土地を担保に住宅を建設してあげ、死亡後はその土地を売却して返済に充てるような仕組みができないものかとの意見もあります。仮設住宅を元の住居付近に建設し、2年と言わず終身使用を認めるという案もあります。住民の立場にたって、ぜひ検討していただきたいものです。
 最後に現地見学に際して(株)キタックには大変お世話になりました。感謝いたします。




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更新日:2005年5月2日