次世代のために地質遺産を守る―日本のジオパークのとりくみ―

地質情報整備・活用機構 岩松 暉
(日本地質学会関東支部シンポジウム「地球から読み取る未来―かけがえのない地質遺産からみえるもの―」講演資料
GUPI Newsletter No.24, p.2, 2005に再録)


1.はじめに

 自然多様性条約が発効し、絶滅危惧種の保全が叫ばれている。貴重種を動物園や植物園に保存しておけば済む問題ではない。だからこそ、条約では「その生息環境とともに」保全するとうたっているのである。高山のお花畑に行けば、砂岩のところと泥岩のところで花の種類が違っているし、石灰岩にしか生えない苔もある。生物多様性biodiversityを保全するためには、つまるところ地質多様性geodiversityを保全しなければならないのである。そこで、ヨーロッパではgeodiversityを守る運動やgeoconservation運動が盛んになってきた。例えば、イギリスではEnglish Natureという政府機関がLocal Geodiversity Action Plans (LGAPs)を策定し、地方自治体もそれに応じたAction Planを実行している。

2.ユネスコのジオパーク

 こうした流れと呼応するかのようにユネスコでは1997年UNESCO Geopark Programmeを提唱、2004年にOperational Guidelines for National Geoparks seeking UNESCO's assistanceを定めた。すなわち、
・地質学的重要性だけでなく、考古学的・生態学的もしくは文化的な価値もある1ないしそれ以上のサイトを含む地域である。
・持続可能な社会・経済発展を促進するための経営計画を有する(例えばジオツーリズム)。
・地質遺産を保存・改善する方法を示し、地質科学や環境問題の教育に資する。
・公共団体・地域社会ならびに民間による共同行動計画を持つ。
・地球遺産の保存に関する最善の実践例を示し、持続可能な開発戦略へ融合していく国際ネットワークの一翼を担う。
 ユネスコ地球科学局のF. W. Eder氏はこれを端的に「保全」・「教育」・「ジオツーリズム」と要約している。このガイドラインに従って現在33個所のWorld Geoparksが認定されており、うち12個所が中国、21個所がヨーロッパである。なお、中国では「地質公園」と漢訳している。同じ漢字文化圏の国として日本でも地質公園とすべきなのかも知れない。

3.日本にもジオパークを

 上述のように、既存のジオパークは大陸の地質ばかりで島弧の地質は一つもなく片手落ちである。ぜひわが国にもジオパークが欲しい。それは災害列島に住む日本人にとって不可欠な国民教養とも言える地学のリテラシーを向上させるのに大いに資するに違いない。

講演スライドはここにあります。


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更新日:2005年10月17日