福岡県西方沖地震による福岡市中心部の被害と警固断層

岩松 暉(GUPI Newsletter No.17, p.1-2, 2005)


 今年正月のNewsletter No.16に「大地動乱の時代が到来したのでしょうか」と書いたばかりですのに、今度は2005年3月20日午前10時53分福岡県西方沖でM7.0の地震が発生、福岡・佐賀で震度6弱を記録しました。北西南東方向の左横ずれ断層によるとされています。震源に近かった玄界島では家屋被害が大きかったと報道されています。大都市圏近傍で発生した割には、幸いにして福岡市内の被害は少なかったようです。4月1~2日調査に行ってきましたのでご報告します。
 玄界島は立ち入り禁止ですから今回は市内中心部を見て回りました。なお、海岸埋立部の液状化災害は調査していません。
 市内を歩いてみると平常通りの賑わいで、確かに家屋被害はあまり見かけませんでした。いくつかのコンクリートビルの柱が座屈しているものもありましたが、倒壊したり屋根瓦が落ちたりする大きな被害を受けたのは大部分老朽木造住宅でした。危険の赤紙が貼ってあり、気の毒に思いました。阪神大震災以来、地震後迅速な建物耐震診断を行うシステムができたことはすばらしいことだと思います。地盤についても同様のシステムができないものでしょうか。新潟県中部地震では同一場所に再興しても良いかどうかが問われています。地質学はこの質問に答える義務があるのではないでしょうか。こんなことも赤紙を見ながら感じました。
 地盤の被害はそれほど顕著ではありません。アスファルト道路に大きく亀裂が入ったりすることもなく、建物と道路の境界や道路の縁石と道路の境界が開口したりする程度です。興味深かったことは警固断層周辺東側にこうした被害が集中し、西側は全く無被害だったことです。西側は数mで基盤に到達するのに対して、東側の基底深度は数10mもあるからです。阪神大震災の震災の帯で注目されたエッジ効果(盆地端部効果)と同様の現象が起きたのでしょう。地盤問題は阪神大震災でも言われていましたが、今回はあまりにも明暗がはっきりしていますので、今後宅盤の地質が社会的に注目されることでしょう。恐らく地質コンサルタントにとってこうした宅盤調査の仕事が増えるのではないでしょうか。
 ところで、警固断層の位置については諸説あります。いずれもボーリングデータの解析に基づいています。今回の被害地域と無被害地域との境界は従来の位置よりもやや西側に寄っています。警固断層に起因する断層谷があり、真の断層位置よりも西側まで谷地形があったとも考えられますが、警固断層は活断層であることと西側では基底面が極めて浅いことから、断層そのものの位置を反映しているのではないでしょうか。高津・他*(準備中)によれば、詳細に見ると、上記被害地域と無被害地域との境界線は雁行配列しており、断層もやはり雁行配列しているのではないかとのことです。


家屋被害の状況




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更新日:2005年4月8日