耐震強度偽造事件に思う

専務理事 岩松 暉(GUPI Newsletter No.27 p.3, 2005)


 昨今耐震強度偽造事件が社会問題になっています。単なる個人的な犯罪というよりは、どうも建築業界の構造的な問題のようです。更に言えば、コスト構造改革のかけ声の下、経済至上主義・業績主義がまかり通る社会風潮も背景にあるのではないでしょうか。お隣韓国でも学者の論文ねつ造事件が問題になっています。技術者魂・学者の良心はどこへ行ったのでしょう。モラルハザードが深く広く進行しているように思います。
 そうであれば、あらゆる業界で程度の軽重はあれ、類似の問題がありそうです。地質調査業界ではどうでしょうか。かつて環境アセスメントではなくアワセメントだと言われたことがありました。技術者の良心に反して発注者に迎合したことがなかったでしょうか。自信を持ってノーと言い切るにはそれだけの力量が求められます。もちろん技術者個人だけでなく、企業の姿勢も問われています。最近は過当競争で低価格入札が常態化し、その上リストラで人減らしが進んでいますから、一人で何件もの現場を抱え、じっくり腰を据えた調査が出来なくなっています。心ならずも通り一遍の報告書で済ませているケースもあるようです。昔はOJTで先輩から技術と技術者魂をたたき込まれたものでしたが、今はどの企業もそのようなゆとりがありません。唯でさえ○×教育で育ってきた世代、仕事とはマニュアル通りにこなすことだと思ってはいないでしょうか。この頃しきりに言われている技術者倫理も暗記科目の一つでは何にもなりません。調査報告書のレベルを審査する第三者機関が必要になるのかも知れません。
 耐震強度偽造事件に関して鉄筋量だけが問題視されていますが、上物だけをいくら頑丈に造っても地盤が悪ければ倒壊します。世間でもそれに気づきはじめ、地盤問題に触れた報道も出てきました。話題を呼んだ『震災時帰宅支援マップ』も地盤状況を加味した新版が刊行されました。地質の重要性をアピールする好機、打って出ましょう。

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更新日:2005年12月26日