祖先の知恵に学び、ソフト対策重視に転換を―日本人は、地域の自然の成り立ちを国民教養に

岩松 暉(Bosai+Plus, Vol.1, No.28, p.3)


 東日本大震災で想定外なる言葉が流行った。しかし、最近の台風による土砂災害は従来もあった想定内の現象である。日本列島はプレートがひしめき合う活変動帯、世界一若い花崗岩が立山に露出し、急激な隆起運動を示している。そのため地形は急峻、河川も急流である。日本海溝から見ればヒマラヤ級巨大山脈の8合目に住んでいるのだ。若い地質時代の軟岩も多く、活断層も多い。その上、アジアモンスーン地帯に位置している。出る釘は打たれる。地すべり・崩壊・土石流・洪水などの地質事象が多発する所以である。それでは土砂災害は日本の宿命なのだろうか。否、災害は社会現象であり、自然現象を災害にしない手はある。
 昔、祖先は自然の暴威とは直接対決せず、敬して遠ざかったり、軽くいなしたりして、上手につき合ってきた。明治期に近代科学技術が輸入され、自然征服型の欧米的発想が主流となり、科学技術過信と行政任せの風潮を生んだ。確かに社会資本の整備が進み、災害、特に風水害の犠牲者は減少の一途をたどった。しかし、もはや限界に達し、ゼロに近づけるためには、費用は指数関数的に増大する。科学技術も今回の震災で露呈したように未だ発展途上で過信は禁物である。今後は祖先の知恵に学び、ソフト対策重視に転換すべきであろう。
 防災の基本は危険分散である。土砂災害の激発しているところは、都市近郊の軟岩からなる丘陵地(新興団地)と、過疎と高齢化で荒れた中山間地である。これを同時に解決するためには一極集中の是正、つまり人口の地方分散が必要である。それはピーク電力の削減を生み、脱原発の可能性を生み出す。そのためには地方で生業の成り立つ政治が求められる。防災行政も縦割りを改め、防災を地域主権型の新しい社会づくりの一環として位置づけ、省庁横断で国の総力を挙げて取り組むべきであろう。新しい意味での“列島改造”である。
 今回の震災では地域の絆が改めて見直された。住民も行政依存を改め、地縁社会を復権する自助努力が求められる。孫子の兵法ではないが、敵 (自然災害の仕組み) を知り、己(自分の住む地域の自然の成り立ち)を知ることが肝要である。つまり、災害列島に住む日本人にとって地学は必要不可欠な国民教養として身につけておくべきであろう。同時に、日頃から地域の自然と親しみ、異常を肌で感じ取ることのできる動物的勘を養っておくことも重要で、避難命令を待つ受け身の姿勢では減災は出来ない。

(2011/10/15)


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更新日:2011年10月15日