岩松 暉著『地質屋のひとりごと』

童話 5


かおるはおねえちゃん

(1)

 かおちゃんは 3さい,あかい ほっぺの げんきな おんなのこです。
かおちゃんは ほんとうは かおるって いうんです。
でも みそのほいくえんでは 『おめめちゃん』って よばれます。
とっても おおきな くるくる おめめを しているからなんです。
かたぎり せんせいは 「もう おひるねの じかんですよ。 きょろきょろ していては だめ。
こまった おめめちゃんね。」と いいます。
シスターは 「すんだ きれいな おめめを していますね。
こちらの きもちまで うつしているみたいで, はずかしく なります。」と いいます。

(2)

 かおちゃんは とても げんきです。 ほかのこみたいに なきません。
おとうさんから きょうかいの もんまで おくってもらうと,
あとは ひとりで ゆけます。
ゆきが ふっても へいきです。
「きたかじぇ こじょうの かんたろうー」と,
おおきな こえで うたいながら かいだんを おりてゆきます。

(3)

 そんな げんきな かおちゃんも ちかごろ ちょっと へんな きもちです。
おかあさんに あかちゃんが うまれるからなんです。
このごろは あまり だっこも してくれません。
おなかの あかちゃんが つぶれるって いうんです。

(4)

 おかあさんが おおきな おなかに さわらせて くれました。
ピクピクッと うごくのが わかります。
とっても ふしぎです。
「かおちゃんも やっぱり おかあさんの おなかを ポンポン けっていたのよ。」と,おかあさんは いいます。
ほんとうでしょうか。
だったら, やっぱり あかちゃんは うまれて くるんでしょうか。

(5)

 おかあさんは よるも いっしょに ねてくれません。
「あかちゃんが うまれたら おねえちゃんに なるんですよ。」 ですって。
おねえちゃんって ずいぶん つまんないの。
でも, あかちゃんは かわいいんだろうな。 いっぱい だっこして あげましょう。
だって, おねえさんですもの。
だから, やっぱり がまんして ひとりで ねましょう。

(6)

 おふとんの なかは つめたくて ねむられません。
おねえちゃんは ひとりで ねるんだ。 えらいんだ。 と, おもいました。
でも, やっぱり ねむれません。
おかあさんが こもりうたを うたってくれました。
いつのまにか うたが しずかになって, おかあさんは ねてしまいました。
かおちゃんは もぞもぞ はってきて,
おとうさんの ふとんに あたまっから もぐりこみました。
「おとうちゃん, ちょっとだけ あっためてえ。」

(7)

 きょうも ゆきです。
おひるすぎ, おとうさんが ほいくえんに むかえに きました。
いっしょに だいがくびょういんに ゆきました。
ほんとに あかちゃんが うまれるんですって。
おとうとでしょうか, いもうとでしょうか。
わくわくしながら ろうかで まちました。
「おぎゃあ おぎゃあ!」
すっごく おおきな なきごえが きこえました。
おとうさんと 「ヤッター!」と さけびました。

(8)

 おいしゃさんが とくべつに おへやの なかに いれて くれました。
あかちゃんは かんごふさんから おふろに いれてもらって いました。
おさるさんみたいな まっかな かおを していました。
ちっちゃな おちんちんも ついて いました。へんなの。

(9)

 おとうさんと おうちに かえりました。
うふふ,きょうから おねえちゃんです。
おとうとが できたのです。
なんだか うれしく なりました。
「おめめ つぶって いたよ。 ポヤポヤッと かみのけも はえてたよ。」と,
ひとりごとを いいながら, サインペンで あかちゃんの えを かきました。

(10)

 ゆうがた おかあさんに あいに ゆきました。
おかあさんは しろい ふとんに ねています。
あかちゃんの えを みせました。
「ありがとう。」
おかあさんは そっと なみだを ふきました。

(1985.10.2 稿)


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更新日:1997年8月19日