岩松 暉著『地質屋のひとりごと』

童話 3


はじめのおいしゃさん

(1)

 はじめちゃんは 2さい, やんちゃぼうずです。
きょうも おおきいこの まねをして, すべりだいを はんたいから のぼりました。
でも, やっぱりむり, すべりおちて あしを すりむきました。

(2)

 おかあさんが あかチンを ぬってくれました。
「いたいところは むこうの おやまに とんでいけー」と, おまじないも してくれました。
ぺたんと きゅうきゅうバンも はってくれました。

(3)

 きょうは おかあさんが かぜぎみです。
「はじめちゃん, おかあさんは あたまがいたいから ひとりで おとなしく あそんでいてね。」
おかあさんは ひなたで よこになり, うとうとしています。
はじめちゃんは しんぱいに なりました。

(4)

 そうだ, いいことがある。
ぼくが なおしてあげよう。
いたいときに おかあさんが してくれることを おもいだしました。
あかチンと ばんそうこうが あれば いいのです。
おかあさんの つくえを さがしました。

(5)

 おかあさんの ひたいに あかい マジックを ぬりました。
おかあさんは まだ ねています。
つぎは ばんそうこう です。
セロテープを ぺたんと はりました。

(6)

 おかあさんは, ひたいの あたりが ムズムズして, めが さめました。
はじめちゃんが しんぱいそうに のぞきこんでいます。
おかあさんが めを あけると, はじめちゃんは にっこりして,
「いたいとこ むこうの おやま とんでけー」と, いいました。
おかあさんの めから ひとりでに なみだが ポロッと こぼれました。

(1985.9.29 稿)


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更新日:1997年8月19日