岩松 暉著『地質屋のひとりごと』

大学・学問・学生 6


地団研よお前もか―モデル論争に関連して―

 地団研第39回総会の「日本の地質」シンポジウムで,岩石屋と地質屋との間にモデルを巡ってやりとりがあった。これを聞いていて感想を一つ。
 四万十帯はクリープ性大規模崩壊の多いことで有名である。災害屋のひとりとして,私も四万十帯を歩いている。もちろんついでに地質も見る。九州四万十帯はアクリーションテクトニクスの典型とされたところで,延岡構造線を境にして白亜系と古第三系が接するとされ,神門層はその剪断岩とされてきた。私は,神門層は海底地すべり堆積物であって断層破砕岩ではないこと,“構造線”の両側に同じような岩石が出現することなどから,その存在を否定していたが,誰も聞き入れてくれなかった。今回私のところの卒論生が,タイプの延岡で“構造線”の北側から古第三紀の放散虫を発見した。地調の蒲江図幅が出る寸前だったので,こちらの紀要の原稿を送って,大慌てで層序を改訂することになった。両方同時印刷だったから引用ページが最後まで決まらず,最終校正段階に電話で知らせてようやく間に合った。その結果,新しい図幅では従来一番古いとされてきた地層が一番若いとして,タスキがけの対比表(対比では気がひけたのか「層序の対応関係」という言葉が使われている)が示されている。腸捻転を起こしているのである。本来,フィールドで地層の上下新旧をキチンと押さえていれば,化石によって時代が多少変わっても対比表では平行移動で済むはずである。地調に限らず,プロの地質屋が卒論ごときに振り回わされるようではなさけない。
 総会会場で四万十団研のリーダーにこの話をしたらフィールドワークには限界があるとして,化石が出なければ地質図も描けないというような雰囲気の返事をされた。これではフィールドジオロジストは化石屋の僕でしかない。こんな段階でモデル作りなどやらないほうがよい。腸捻転の病弱の身で,シェイプアップのためにボデイビルをするようなものである。さらに言えば,世間でエアロビクスダンスが流行り出した頃,すたれかけたジャズダンス(アクリーションテクトニクス)をはじめた観がある。まず健康を取り戻すことが先決で,シェイプアップはそれからであろう。あまり無理をして生命まで失っては元も子もない。

(1985.8.7稿 『そくほう』1985年11月号掲載)


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更新日:1997年8月19日