岩松 暉著『地質屋のひとりごと』

山を見る・山と語る 9


岩石の破壊過程を見る

1) はじめに

 岩石破壊現象の解明は構造地質学や地震学にとって重要なことは論を待たない。火山噴火も結局は割れ目を通ってマグマが上昇してくる現象であり,鉱脈型金属鉱床も熱水が割れ目を通ってくる過程で有用鉱物を沈着させたものである。石油や温泉・地熱などの流体鉱床もまた貯留岩中の割れ目に胚胎していることが多い。これら有用鉱床の探鉱や鉱量評価にとって,割れ目の成因とパターンあるいは発達程度などが大切な要素となる。さらには,建設工学にとっても,割れ目は建設基礎の強度だけでなく,透水性や施工の安全性に大きな影響を及ぼす。近年原子力発電所などの立地に関連して,“活断層問題”が論議されている。今後ジオフロント計画など大深度地下空間の利用が現実化していくなかで,割れ目の問題はますます緊急の課題になるに違いない。
 こうした社会的ニーズに関連して,岩石のフラクトグラフィー(1)の研究が重要になってきた。とくに,断層の活動性の問題や鉱床形成の時空条件を考える場合には,岩石破壊過程を時系列的に追ってみる必要がある。そのため,岩石三軸試験(2)のいろいろな段階で試験を中断し,割れ目パターンを観察する静的解析が行われてきた。しかし,別々の供試体の観察結果をつなげて類推するという本質的な欠陥は避けられない。また,途中で除荷するわけだから,一旦開口した割れ目も観察段階では閉じてしまっていたり,除荷時の応力解放割れ目の新たな発生など,さまざまな技術的問題を含む。アコースティックエミッション(AE)(3)では割れ目の発生位置を知ることはできるが,方位や割れ目の性質はわからない。やはり同一供試体の全破壊過程を直接観察するに限る。

2) 試験装置

 当初,既存の高圧容器に設けられているストレインゲージ用リード線取出し口から光ファイバーの挿入を企てた。しかし,撮像部に真空の部分があり,そこにも側液を注入するなど指示をしたが,胃カメラメーカーの抵抗にあい製作できなかったため,やむなく,固体のロッドレンズを使用する方式に切り換えた。ファイバーのように柔軟ではないから,高圧容器の真横に削孔しなければならない。当然,安全性に問題が出てくる。結局,アクリルの窓を付けて,ボアスコープでのぞく方法を採用し,一応100MPa(4)までの高圧に耐えることに成功した。側液には透明なシリコンオイルを用い,透明ビニールジャケットを使用した。試験経過は高画質ビデオに収録し,画像処理をするシステムになっている(第1図)。
 なお,用いた試験機は,筆者が設計した鹿大型と称する電気油圧サーボ式マイコン制御の二軸同一型高圧三軸試験機で,性能は封圧最大400MPa,軸圧最大50ton,温度200゜Cである。供試体寸法は39.0mm×19.5mmφとJISよりかなり小さい。

3) 主破壊後の継続試験

 岩石の力学試験がよく行われている工学分野では主として岩盤の強度を問題とし,地球物理学分野では破壊機構が興味の対象となっている。したがって,供試体が破壊してしまえば,即,試験終了となるのが普通である。しかし,実際の地球の場合,断層が形成されたからといって,プレートが停止するわけではない。広域応力場はそのまま維持され,その後も引き続き横圧力を受けて第二・第三の断層が形成されたり,最初の断層が再活動したりする。最初引張破壊で形成された裂罅も,もっと押されるとずれを伴い,剪断破壊面(5)と誤認されることもあろう。したがって,力学試験でも主破壊発生後引き続いて試験を継続してみる必要があるのではなかろうか。また,試験終了後の除荷の過程も追ってみる必要がある。構造形成後の全般的隆起の過程で割れ目が顕在化したり,剪断破壊面でも開口したりすることが予想されるからである。
 今回はひずみ速度1×10-4/secの定ひずみ試験を行った。プレートの移動速度はほぼ一定であるから,一応それに擬したつもりである。ローカルにみれば定応力と考えたほうがよいかも知れないが。

4) 予察結果

 以上の条件で予察的な研究を行ったところ,さまざまな新知見が得られた。一例として,共役断層が形成されるような応力条件下における破壊過程を見てみよう(第2図)。
 まず降伏点(6)を過ぎて応力―ひずみ曲線が直線から外れ出す頃,荷重軸方向に平行な微小伸張割れ目が供試体の全面にわたって多数出現する。これらは閉じてその後は見えなくなるらしい。さらに,応力降下の著しい点(従来の破壊点)で,爆発音を伴って剪断割れ目(一次割れ目:主断層)が形成されるが,一点から破壊が始まって次第に伝播していく様子が観察される。実際にずれが明瞭に認められに認められるのは,もう少しひずみが進行してからである。
 引き続き荷重を加えると,だんだんビヤ樽型に変形していき,もう一度破壊が起こる。この時,先の主断層と共役な方向に2本の割れ目(二次割れ目)が形成される。これらはほとんど瞬時に形成され,先の主断層のところで停止し,主断層を切ることはない。また,主断層付近で枝分かれすることも多い。シャープで直線状の主断層と異なり,割れ目は不規則なことも多く,面の両側で凹凸が合致する場合もある。すなわち,面に直交する方向の変位を示唆する。恐らくビヤ樽型に膨らむことに伴う二次応力によって,伸張割れ目(裂罅)として,別々に形成されたものと思われる。これらは一次割れ目によって切断されずらされたような外観を呈するから,従来のように試験終了後観察していたのでは,全く前後関係を誤ってしまったに違いない。なお,一次割れ目は破壊が伝播するわけだから余震を伴うタイプの地震を発生するのに対し,二次割れ目は余震を伴わないタイプなのかも知れない。実際に観測される地震波に違いがないかどうか吟味して欲しいものである。
 さらにひずみが進行すると,これら二次割れ目もずれ出し,今まで一次割れ目のずれで全ひずみをまかなっていたのが,二次割れ目発生後は二次割れ目に沿うずれの分だけ一次割れ目のずれが減少する。つまり,変位速度が急変する(第3図)。したがって,断層ごとの平均変位速度から地震の再来周期を論じたりするのは若干問題があるように思う。その地域の断層系全体としての変位速度やひずみの蓄積状況から判断するほうが望ましいのではないだろうか。もちろん,三次割れ目が出現すれば,同様に二次割れ目の変位速度も減少する。これは前二者の割れ目とほぼ直交する方向に形成されることが多い。すなわち,最小主応力軸と中間主応力軸が転換することもある。
 ここでは割愛したが,封圧が低い場合には単一剪断割れ目だけが形成される。この場合,荷重を加え続けると,ときどきstick-slip状(7)にひずみが進行するのが観察される。同一断層の再活動型なのかも知れない。
 試験終了後の除荷の問題も重要である。静水圧を保ちながらゆっくり減圧するのが常識だが,正直言って従来は除荷にはあまり神経を使ってこなかった。しかし,除荷の速度や方法によって,割れ目の生成状況が非常に異なる。ビヤ樽型に膨れていたものが,徐荷の過程でスリムになり,割れ目が見えなくなることもあるし,逆に今まで肉眼では見えなかった割れ目が顕在化することもある。さらには,あまり急激に除荷すると,新しく荷重軸に直交する方向に応力解放割れ目が形成されることもある。いずれにせよ除荷と割れ目の開口とは密接な関係にあり,鉱脈型鉱床の成因を考える場合に,その地域の第四紀における隆起運動の重要性を暗示する。

5) 鉱床探査への応用

 鉱脈型鉱床は裂罅に胚胎する以上,上述のような割れ目の形成過程と何らかの関係があることは自明であろう。世界有数の金鉱山として有名な菱刈鉱山を例に考えてみたい。
 菱刈鉱山は北東―南西に伸びる基盤の四万十層群の高まりに位置している。これを不整合に覆う安山岩質火砕岩は不整合面と略々平行な構造をしており,短軸背斜状(8)を呈する。鉱脈群は高まりの頂部に伸びの方向と平行に存在し,富鉱部は不整合面付近にあるという。したがって,こうした割れ目と前述の高まりとは何らかの成因的関係があると見るほうが自然であろう。まずこの高まりの成因を明らかにしなければならない。北西―南東の横圧力によって背斜として形成されたか,あるいは逆に同方向の引張応力場で地塁(9)として形成されたか,克明な地質調査が望まれる。いずれにせよそうした構造運動に伴って頂部付近に伸張割れ目が形成され,このとき熱水脈ができた。その後,100Ma頃の急激な全般的隆起に伴う除荷によって脈はさらに開口し,隆起による温度低下と急激な開口に伴う減圧で熱水が沸騰し金をもたらした。このような筋書きが考えられないだろうか。岩脈も鉱脈も無理矢理文字通り貫入したのではなく,開口に伴っていわば“吸い込まれて”受動的に形成されたのではないだろうか。また,不整合面付近の相対的に標高の高いところに富鉱部が存在するのは石油の背斜トラップと同じ原理である。このような温泉型金鉱床は石油の裂罅型貯留岩と同様の流体鉱床とみなし,石油探鉱と同じ考え方がとられるべきであろう。断層トラップや層位トラップなども考えられる。
 要約すると,基盤の高まりがあって,かつ,急激な隆起をしたところで,さらに熱源が存在するところに有望な鉱床が胚胎する可能性があると言えよう。したがって,広域の造構応力場と造構史の解明が重要となる。高まりを形成した南九州のテクトニクスについても仮説を持っているが,あまりに憶説に過ぎるので省略する。

6) むすび

 小論は岩石のフラクトグラフィーのアナロジーから鉱床について憶測をたくましくしたものである。筆者は鉱山地質学の全くの素人であるから誤解や誤りがあるかも知れない。鉱床学にとって何らかのヒントになれば幸いである。また,鉱山地質学関係者が岩石力学や構造物理学に関心を寄せてくださることを希望する。

[言葉の解説]

(1) フラクトグラフィー:金属組織学の用語。割れ目のパターンや成因を研究する学問。邦訳はない。割れ目学とでも訳せよう。
(2) 三軸試験:岩石は地中では四方八方から圧力を受けている。その状態を再現するために,周囲から油圧を加え(側圧・封圧),上からピストンで圧力(軸圧)を加えて岩石を破壊する試験。
(3) アコースティックエミッション:岩石の破壊音を測定して,破壊位置などを決める手法。
(4) MPa:圧力の国際単位。cgs単位系では1MPa=10kg/cm2
(5) 剪断破壊:外力の作用により物体内に内力を生ずるが,面に沿う成分が剪断力である。この剪断力によって破壊する現象をいう。
(6) 降伏点:応力―ひずみ曲線が直線から外れ出す点をいう(第2図参照)。
(7) stick-slip:連続的にすべるのではなく,断続的周期的にすべること。
(8) 短軸背斜:地層が上に凸状に曲っているのを背斜状構造というが,その軸方向の長さが短いものをいう。いわばコッペパン状の形態をなす。
(9) 地塁:両側を正断層で限られて内側の部分が相対的に隆起した地質構造をいう。

(『ぼなんざ』1991年4月号 掲載)


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更新日:1997年8月19日