山を見る・山と語る 5
@ 使用スライド[鹿大理学部正面ヤシ並木風景]
みなさん,こんにちは。みなさんは鹿児島大学の地学科を第一志望にした人たちばかりですね。私たちは地学に本当に打ち込んでみたいというファイトのある学生を歓迎します。
A 使用スライド[桜島噴煙]
みなさんの先輩に聞くと,鹿大地学を志望した動機として,「鹿児島には桜島火山があるから」と答える人が多いようです。そこで,今日は火山の話をしましょう。といっても,桜島の話では,鹿児島出身以外の人にとっては不公平ですから,別のタイプの火山や火山岩のお話をすることにします。
B 使用スライド[根室の天然記念物車石]
これは北海道根室にある天然記念物の車石です。外形が丸くて放射状の割れ目が入り,本当に車そっくりですね。英語では pillow lava といいます。そういえば,西洋枕 pillow にも似ていますね。Lava は溶岩ですから,学術用語としては,この和訳の枕状溶岩を使います。このような枕状溶岩は,日本各地で見られ,俵石などと呼んでいるところもあります。どうしてこのような奇妙な形ができたのでしょうか。
C 使用スライド[玄武岩溶岩の顕微鏡写真]
枕状溶岩を取ってきて偏光顕微鏡で見ると,非常に細かな石基の中に,斜長石やカンラン石・輝石の大きな斑晶が入っているのが観察されます。すなわち,枕状溶岩は玄武岩でできていることがわかります。
D 使用スライド[ハワイの溶岩噴泉]
玄武岩の火山というと,桜島のようにドカーンと爆発的な活動をして,ゴツゴツした溶岩や軽石を噴出させるのと異なり,ハワイや伊豆大島のように,ドロドロした粘性の低い溶岩が,山腹を急速に流下するタイプの噴火をするので有名です。
E 使用スライド[縄状溶岩]
その溶岩が冷えると,このような縄状やアア・パホイホイといった特徴的な表面形態をとります。溶岩が流れた時の形をよく残していますね。しかし,ハワイや大島の地表をいくら探しても,あのような枕状溶岩は見当りません。
F 使用スライド[柱状節理]
それでは,溶岩の表面ではなく,もっと中のほうにできているのでしょうか。この写真は溶岩の断面形態を示したものです。ちょうど柱を立て並べたようなので,柱状節理といいます。節理とは割れ目のことです。車石のように放射状に並んでいませんね。やはり,溶岩の内部にも枕状溶岩はありませんでした。
G 使用スライド[乾痕]
干上がった田んぼの泥が,亀の甲羅のようにひび割れしているのを見かけたことがあるでしょう。これは乾燥による脱水のためにできたのですが,先ほどのような節理は,溶岩の冷却に伴ってできるもので,冷却面に垂直にできるのが特徴です。
H 使用スライド[車石(再)]
現在私たちが目にする枕状溶岩は,実は地質時代のものばかりで,活火山で実際にできるところを見た人はいませんでした。いったい枕状溶岩はどこでできたのでしょうか。
I 使用スライド[ダイバー]
しかし,これをついにカメラにおさめることができたのです。なんと,ハワイの海底にもぐったダイバーたちが世界で初めてこの光景を目撃しました。そうです,枕状溶岩は水中でできるのです。
これからその時の記録映画をお目にかけます。これをよく見て,枕状溶岩がどのようにして形成されるか考えてみましょう。なお,この映画はハワイの火山研究所が作成したオリジナルですから,英語のナレーションが付いています。しかし,英語が全く聞き取れなくてもかまいません。地質学者は,もの言わぬ石を見て太古の姿を考えるのですから。要は,大学に入ってから必要になる観察力・考察力を見たいのであって,英会話の力を試験しようとしているわけではありません。また,枕状溶岩というものを今日初めて知った人でも心配するにはおよびません。枕状溶岩についての知識を試めそうという試験ではありませんし,それに,未知のものを発見し,その意味を考えるのが科学ですから。
目の悪い人は前に出て来ても結構です。もちろん,下書用紙にメモをとってもかまいません。解答用紙に記入するのは,ビデオが終わってからにしてください。それではこれから始めます。
問1 映画に示されている,まくら状溶岩(pillow lava)の形成過程を簡潔に説明しなさい。図を併用してもよい。
問2 (1) まくら状溶岩とはならない溶岩(例えば,アア溶岩,パホイホイ溶岩,水中自破砕溶岩)とくらべて,まくら状溶岩の形成にはどのような条件が必要か。その条件を列挙し,その条件が必要な理由を述べなさい。
(2) 玄武岩の性質について書きなさい。
(以下は,下書き用紙として使いなさい。最後に回収します。)
上記の脚本と記録映画は,すべてビデオに録画しておき,試験日当日,試験場で上映した。なお,ビデオ終了後,受験生が答案を書いている最中は,車石のスライドを写しっぱなしにしておき,参考に供した。
この試験は,おそらくどこの高校でも教えていないであろう枕状溶岩を例にとり,どの受験生にとっても平等の条件で,観察力・考察力を見ようとしたものである。大学において,地学を創造的に学んでいくためには欠かせない視点だと考えるからである。
試験の結果は,陸上から海に流れ込んだ溶岩は自破砕状を呈するが,直接海中に噴出したものは枕状になることを的確に観察した者,放射状節理の成因を水による急冷と関係づけて考察した者,はてはガス圧の問題にまで論及した者など,予想以上の解答もあった。
問2の(2)は他の問題に手も足も出なかった人のための救済策として付け足した。高校生にとってなじみ深い通常形式の問題でる。これに真っ先にに手をつけた人は,地学は暗記物と考えていた生徒らしく,やはり前半の成績は悪かった。
(1986.9.13 稿)