岩松 暉著『地質屋のひとりごと』

明日の地質学をめざして 9


九州の自然的特性と応用地質学

 その問題については,先日の記念シンポジウムでの山内・露木両先生による立派なまとめがございます。これに全て尽くされておりますが,ここで復習してみます。
 九州は西南日本弧と琉球弧の会合部に位置するため,地質が大変複雑です。何よりも火山の存在が特徴的です。各種の火山岩や火山性堆積物が広く分布しており,しらす・よな・こら・灰土など,火山に起因するいわゆる“特殊土”も多く存在します。また,地質時代的にもシルル系から第四系まで,さらには変成岩・花崗岩・硬質堆積岩から軟岩まで,実に標本箱のように各種各様の岩石が分布しています。有明粘土のような軟弱地盤もあります。それぞれ土木施工上個別の配慮が必要であり,一筋縄にはいきません。
 大きな河川が少なく,かつ,離島を何百とかかえている九州では,水問題も深刻です。大都市の飲用水や工業用水・農業用水あるいは離島の水確保など,課題が山積しています。地下水・ダム・地下ダムなど,水理地質学を体系だてて研究教育しているところが少ないため,この面での学問水準と技術の向上が応用地質学に求められていると思います。
 気象の上でも九州は特殊な位置を占めています。すなわち,太平洋高気圧の縁辺部に位置するため,台風がそれを迂回する結果,しばしば台風の通路となり,風水害に見舞われがちです。また,南向きの湾が多く,台風が湾の西側を通過すると高潮が発生しやすい場所が多くあります。さらには梅雨前線も長期間停滞しがちです。その結果,集中豪雨による土砂災害などがしばしば発生します。こうした風土の故に,九州ではとくに防災的見地から応用地質学の貢献が求められているといえます。
 以上述べましたように,九州では応用地質学の課題が数多くありますが,逆に言えば,九州は応用地質学の格好のフィールドであり,腕を磨く場所としては絶好です。業界に入った卒業生には,視野の広い一流の技術者になりたかったら,九州へ転勤していらっしゃいと勧めている次第です。

(1987.12.4 応用地質学会九州支部10周年記念座談会 『日本応用地質学会九州支部報』9, 1988, 掲載)


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更新日:1997年8月19日