岩松 暉著『地質屋のひとりごと』

明日の地質学をめざして 17


地質学会のあり方について(私見)

§ 学会のユニオン化

 最近の地質学会は適正規模を超え少々肥満児化して、恐竜ではないがそろそろ滅亡の兆候が出てきたのではないかと心配である。やはり化学会などのように学会ユニオンにすべきだと考える。すなわち、構造地質学会など個別学会を独立させ、どれかに入会すれば自動的に地質学会(=地質科学連合)の会員になったと見なすのである。会員個人には個別学会誌の他に、傘下の他学会誌の論文要旨が掲載された抄録誌が配布されるようにすればよい。レターの発行も考えられる。
 こうした日本地質科学連合の他に、日本地球物理学連合など、学術会議の研連にほぼ対応するいくつかの学会連合を作り、個別学会は上位団体を任意に選べるようにすればよい。例えば、火山学会は上記の両方に加盟し、情報地質学会は地質科学連合と情報科学連合に入ればよい。また、これらの学会連合はIUGSやIUGGなど国際的な学会連合とのように、個別学会と密接に対応する国際機関がある場合には、直接に関係を持つことを妨げるものではない。
 いずれにせよ先輩格の化学会や土木学会のような社団法人になっているマンモス学会の実情を問い合わせ研究すべきだと思う。

日本地質科学連合 構造地質学会 
堆積学会 
海洋地質学会→地球物理関係とも連携
古生物学会→生物学関係とも連携
岩石鉱物鉱床学会 
火山学会→地球物理関係とも連携
地球化学会→化学関係とも連携
鉱物学会 
結晶学会→物理学関係とも連携
資源・素材学会→工学関係とも連携
石油技術協会→工学関係とも連携(石油学会)
応用地質学会→工学関係とも連携(土質工学会・土木学会)
地すべり学会→工学関係とも連携(土質工学会・土木学会)
環境地質学会→環境科学関係とも連携
地下水学会→工学関係・農学関係とも連携
温泉科学会 
地熱学会→地球物理関係とも連携
土壌学会→農学関係とも連携(土壌肥料学会)
情報地質学会→情報科学関係とも連携
物探学会→地球物理関係とも連携
地形学連合→地理学関係
地学教育学会→教育学関係とも連携


 
※ 以下が参加するかは当該学協会の意向による
  東京地学協会
  地学団体研究会

§ 学会の運営

 また、地質学会の評議員会は人数をもっと少なくして、実際に日本の地質学を前へ推し進めてきた有能な学者で、かつ、見識のある方で構成したらよいと思う。必ずしも会員構成を忠実に反映していなくてもよいのではないだろうか。民間の地質技術者には応用地質学会があるし、教師には地学教育学会や地団研がある。地質学会はやはり国際的に日本の地質学を代表する存在であって欲しいと切望する。
 実務・財政の面では、一日も早く法人化して、経営手腕のあるスタッフを配置すべきであろう。財政は個別学会からの上納金と後述の事業収益でまかなう。

§ 研究発表会・シンポジウム

 研究発表会は個別学会ごとに別々にやって、十分な時間をかけたディスカッションを保障したほうが実りがあると思う。今の15分では言いっぱなしの単なるセレモニーにすぎないし、同時並行に多数の講演が行われるため、本当に聞いてもらいたい人が会場にいないといった事態がしばしばあって、若い人の中には不満をもらす人もいる。学会が旧交を暖める社交の場にだけなっていては困る。
 一方、個別学会だけでは視野が狭くなるから、学会連合が主催して学際的なものやいくつかの個別学会にまたがる横断的なもの、あるいは萌芽的なテーマやトピックス的なものなど、さまざまなシンポジウムを適宜企画してはどうであろうか。もちろん、地球惑星科学のように複数の学会連合が共催するシンポジウムがあってもよい。
 なお、今年開かれた地球惑星科学連合関連学会に地質学会が入っていないのは大変問題だと思う。これではあたかも地質学は地球科学ではないかのようである。少なくとも文部省あたりにそうした印象を植え付ける政治的効果はあったに違いない。地質学会が全部合流したら、それこそマンモスになって実際的ではないから、前日に横浜で行われた「岩石学の革新的視座」のような地球惑星科学と直接切り結べるような分野のシンポジウムや分科会はあちらと一緒にやったほうがよかったのではないだろうか。

§ 各種事業等

 土質工学会や土木学会は、研究発表会だけでなく、土質基礎ライブラリーや土木工学体系など各種講座ものの出版、教材スライドの刊行、各種講習会の開催など、多彩な事業を行っている。地質学会も大いに見習うべきであろう。
 また、財政基礎が充実してきたら、研究助成なども行えればこれに越したことはない。

§ その他

 例えば、応用地質関係を例にとると、主として応用地質学会や土質工学会で活躍する人、地すべり学会を主舞台とする人、それに地質学会と地団研で活躍する人と大ざっぱに言って3種類のグループがある(私のようにどこにでも首を突っ込む浮気者もいるが)。本当は小異を捨てて大同につき、共通の場があるとよいと思う。地質学の将来像も本来それらの方達とも一緒になって衆知を集めるべきだと考える。しかし、考え方や専門の違いもあり、無理に統一すべきでなないだろうが。

(1990夏頃 稿)


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更新日:1997年8月19日