JABEEと地質学

応用地質42巻2号巻頭言


 グローバリゼーションの波はとどまるところを知らない.地質コンサルタント業でも,国の内外で国籍を問わず入り乱れて競争する時代になるであろう.すでにAPECエンジニアの登録が開始され,わが国の技術士制度も変わろうとしている.エンジニアの国際資格では認定された大学の卒業が第一要件となる.それに伴い,わが国でも1999年日本技術者教育認定機構(JABEE)が設立され,審査の試行も始まった.地質工学分野は立ち上がりが鈍く,ためにJABEEから除外されてしまい,今資源分野との合同により敗者復活を図っている.
 そもそもわが国の地質学は,明治初頭ヨーロッパから輸入されて以来,産業の基幹である資源とエネルギーを担う分野として重きをなしてきた.戦後も手厚く保護され,戦後復興の旗手としてもてはやされた.しかし,その地位に安住し,高度成長期以降,地質学を支えるインフラが資源産業から土木建設産業に変わったにもかかわらず,日本の地質学はそれに対応してこなかったと言ってよい.ソニーやホンダのように町工場からたたき上げて今日を築いた創業者たちと異なり,輸入学問としてスタートし,最初から官と結びついて発展してきたから,先例を踏襲するのが倣いとなり,安閑としていて柔軟な発想ができなかったのであろう.JABEEでもまたバスに乗り遅れた.現在はもっと変化の激しい社会の転換期,再び同じ過ちを繰り返してはならない.
 柳田邦男氏は,明治国家体制は敗戦で78年の幕を閉じ,今また,戦後体制が「第二次敗戦」を迎えようとしていると述べた.昨今の政官財スキャンダルが制度疲労を端的に示している.周知の通り,黒船襲来が明治維新を引き起こし,B29が戦後体制にとって第二の黒船の役割を果たした.してみると,今回のグローバリゼーションの波は第三の黒船襲来にたとえられようか.旧来の地質学を墨守し攘夷を貫くのか,黒船を逆手に取り,積極的に時代の要請に応えていくのか,今岐路に立っていると言えよう.ただし,これからは官の時代ではなく民の時代,NGO・NPOの時代である.行政に取り入ってうまい汁を吸う姿勢はもう通用しない.大型公共事業は縮減の方向にあり,今後は地域アメニティー空間の創造など環境デザインや地質汚染の防止,あるいは防災面での地質学の貢献が求められている.地域住民の生命と暮らしに直接関わる分野である.もちろん,地球環境保全などグローバルな視野も忘れてはならない.IAEGの会名にも「環境」が付け加わった.
 同時に業界だけでなく,学問としての地質学も脱皮を求められている.20世紀は分析哲学全盛,学問の細分化が極端に進み弊害が出てきた.今世紀は総合化の時代,ボーダーレス時代であり,理学・工学といった境界はなくなるであろう.地質学も地球科学・工学等すべてを総動員するmulti-disciplinaryな総合科学になる必要がある.教育面でも,フィールドワークができて,数学・物理や情報科学にも強く,かつ広い社会的視野とエンジニアリングのセンスも合わせ持った地質屋を育てなければならない.それは直ちにJABEE対応となる.問題はエンジニアリング分野を教えることのできる大学教員の登用であろう.産学官の人事交流が望まれる.
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更新日:2001年4月24日