面従腹背

 岩松 暉(未発表, 1999)


 学会で会った他大学(複数)の教員からびっくりするような話を聞いた。
 「鹿大では新しい学科の教室会議をちゃんとやっていますか」との質問があったので、「もちろん」と答えたところ、「へー、真面目ですね」との反応が返ってきた。その大学は、うちと同じく複合学科になったところである。新学科の中には旧学科に対応するコースが教育課程として存在していることが多い。そのコース毎に別々に教室会議をやっており、学科全体の会議はないという。教員たちがそれぞれのギルドを維持しようとしているだけならまだよい。問題は学生にまで強制していることである。入学直後から厳密にコース分けを実施し、以後ずーっと縦割りの教育をするのだという。数理情報学科の例では、父兄が「うちの子は数学が苦手だから情報コースへ進学するつもりで入学したのに強制的に数学コースに割り振るとは何事か」とねじ込んできた由(脱線:数学苦手で情報とは、それこそ何事か)。学科改組した以上、入試はコース別に実施するわけにはいかない。新学科一本で行われる。点数順に合格させるので、当然、コース毎のアンバランスが出てくる。そこで第二志望にまわすといったことが行われたのだろう。今、文部省は推薦入学の枠を増やせと指導している。ペーパーテストと違って、面接など自由裁量の余地があるから、コースの希望を聞いて、事実上コース毎の合格判定が合法的に行われる可能性がある。これではコースという名の事実上の学科である。
 今回の大学改革が大学人の自発的意志ではなく、文部省に無理矢理改組を迫られたから、やむなく実行せざるを得なかったとする人が多い。先に「びっくりするような話」と書いたが、予想された事態というべきか。まさに面従腹背である。
 一方、わが鹿大理学部では、複合学科の額面通り、「真面目に」幅広い人材を養成しようとしている。それぞれの分野が必修を指定したのでは、全部課された学生はたまらない。それに時間的制約上不可能に近い。そこで全部選択科目となった。当然、単位の取りやすい科目や漫談をやる先生の授業を受講する。面白くも可笑しくもないが、プロになるために絶対不可欠な事項を体系的にがっちりたたき込む基礎教科は不評である。結局、広く浅く聞きかじった学生が卒業することになる。教養大学である。マスコミ向けの人材になるかも知れないが、プロは育たない。プロを育てるためには、他大学のように面従腹背するしか手はないのだろうか。はてさて。
連絡先:iwamatsu@sci.kagoshima-u.ac.jp
更新日:1999年6月9日