岩松 暉著『残照』5


大学生の生活指導

 文部省が「大学による学生生活の支援策」を検討する研究会(座長:広中山口大学長)を発足させたという。不登校学生をどう立ち直らせるか、付き合い下手な学生を支えてサークル活動をどう活性化させるかといったことを議論するらしい。朝日新聞(1999.7.30付)によれば、大学関係者には「大人であるべき最高学府の学生に、そこまでしてやらねばならないのか」という声もあるが、文部省は「学費の対価として、大学がどのようなサービスを提供できるかが問われている時代になってきた」と主張しているとのこと。
 低学力でも定員通り入学させ、それに補習をしたり、生活指導したりして、手取り足取り卒業させろ、という方針は、義務教育の場合には良く理解できる。しかし、大学の場合は違う。世の中が大卒に要求しているのは、そんなひ弱な人間ではない。昨日と同じものを今日も売っていたら、明日は潰れるのが企業、明日をリードできる人材が求められている。昨今の平成不況、たくさん採用してOJT(企業内教育)で育てるような余裕はない。少数精鋭の採用となると、勢い欲しいのは昔と同様、エリートの幹部候補生となる。  文部省は何もわかっていない。文部省の主流は初等中等教育局で、大学を担当する高等教育局は傍系なのだという。義務教育のセンスで大学を捉えているのだろう。世はPL法(製造物責任法)の時代である。文部省のいうような大学にして、その卒業生にPL法が適用されたら、どこの大学も引っかかってしまう。逆に、欧米のようにもっと厳しくすべきである。毎学年審査して、水準以下の者はドシドシ退学させ、大学教育のレベルを維持するのが順当だろう。わが国は発展途上国から追い上げられており、新技術の開発を追求しない限り未来はない。それは大学卒業生の双肩にかかっているのだから。

(1999.8.2 稿)


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更新日:1999年8月2日